【ことわざ】
網にかかった魚
【読み方】
あみにかかったうお
【意味】
逃げようとしても逃げ出せないことのたとえ。どうすることもできない状態。


【英語】
・be trapped with no way out(逃げ道がなく閉じ込められている)
【類義語】
・袋の鼠(ふくろのねずみ)
・籠の鳥(かごのとり)
・俎上の魚(そじょうのうお)
【対義語】
・俎上の魚江海に移る(そじょうのうおこうかいにうつる)
「網にかかった魚」の語源・由来
「網にかかった魚」は、魚を捕る網に入ってしまった魚の姿から生まれたことわざです。網は、糸や縄などを目の形に編んで作り、魚や鳥を捕らえる道具として用いられてきました。また、そこから広がって、捜査や取り締まりのように、人や物事を捕らえるために張りめぐらしたものも「網」といいます。
古い日本語の中でも、網と漁は早くから結びついています。『万葉集』(8世紀後半成立、奈良時代)には、海人が網引きをする呼び声を詠んだ歌があり、網が魚を得るための生活の道具として身近にあったことが分かります。ここでは、まだ「網にかかった魚」ということわざそのものではありませんが、魚を捕る網という具体的な場面が、日本語の古い層に根づいていたことを示しています。
「かかる」という言い方も、このことわざの意味を支えています。「魚が網にかかる」という場合の「かかる」は、仕掛けの働きによって動物が自由に動けなくなることを表します。つまり、魚が自分から止まったのではなく、網という仕掛けに入った結果、前にも後ろにも動きにくくなった状態をいうのです。
実際の漁法にも、「網にかかった魚」を捕るしくみは多くあります。たとえば「建干し」は、遠浅の海や川に網や竹のすを立て、潮が引いたあとにそこにかかった魚を捕る方法です。『言継卿記』(永禄7年・1564年、室町時代末期)にも、立干しで魚を多く取った記録が出てきます。魚が水とともに逃げる道を失い、網やすに残されるという場面は、このことわざの土台となる感覚をよく表しています。
また「叩網」は、船べりや水面をたたいて、岩や藻の間にいる魚を網の方へ追い出し、網にかけて捕る漁法です。魚は水の中ではすばやく動けますが、行く先をふさがれ、網目に入ってしまえば、自由に泳ぎ続けることができません。この「逃げる力はあっても、逃げ道がなくなる」というところが、のちに人間の苦しい状況を言い表す比喩へ移っていきました。
そのため「網にかかった魚」は、単に困っているだけでなく、すでに逃げ道をふさがれ、どうあがいても抜け出しにくい状態を言います。捕り物、勝負、約束、失敗の後始末など、いったん追い込まれると自分の力だけでは逃れにくい場面に合うことわざです。今の意味も、網に入った魚という具体的な姿から離れすぎず、「逃げようとしても逃げ出せない」という一点を保っています。
「網にかかった魚」の使い方




「網にかかった魚」の例文
- 証拠の写真まで残っていて、言い逃れできない彼は網にかかった魚だった。
- 締め切り直前に資料の不足が分かり、担当者は網にかかった魚のような気持ちになった。
- 出口をふさがれた犯人は、まさに網にかかった魚だった。
- 約束を忘れて遊びに行ったことが家族に知られ、兄は網にかかった魚となった。
- 取引先にも上司にも説明が済んでおらず、彼は網にかかった魚の状態で会議に出た。
- 大会当日に道具を忘れたチームは、開始時刻を前に網にかかった魚のように焦った。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・国立国語研究所『基本動詞ハンドブック』。
・円満字二郎編『小学館 故事成語を知る辞典』小学館、2018年。























