【一籌を輸す】の意味と使い方や例文!故事は?(類義語・対義語・英語)

一籌を輸す

【故事成語】
一籌を輸す

【読み方】
いっちゅうをゆす

【意味】
相手に一歩おくれをとること。わずかに負けること、また、少し劣ること。

ことわざ博士
「一籌を輸す」は、勝負や能力の比較で、相手より少し下に立つことを表しているよ。
助手ねこ
試合、議論、技術、成績などで、相手にわずかに及ばない場面に用いるニャン。

【英語】
・be outdone by(〜に負ける、〜より劣る)

【類義語】
・一籌を遜ずる(いっちゅうをゆずる)
・引けを取る(ひけをとる)

【対義語】
・人後に落ちない(じんごにおちない)

「一籌を輸す」の故事

故事成語を深掘り

「一籌」の「籌」は、もともと勝負の点数を数えるために使う竹の棒を指します。一本の籌は、勝負における一つの数取り、つまり一つの点や一段階の差を表します。そこから、「一籌を輸す」は、相手に一本分の籌を渡すように、ほんの少し負ける、少し及ばないという意味へ広がりました。

中国の古い文章では、「輸一籌」という形で、相手に一つ分だけ譲る、負けを認めるという意味で用いられています。唐代の逸話を集めた『大唐新語』には、楊纂が尹伊の判断を聞いて「纂輸一籌」と述べ、さらに唐太宗が「楊纂聞義伏輸一籌」と笑った話が出てきます。これは、尹伊の判断のほうがすぐれていると分かり、楊纂が一歩譲った場面です。

宋の詩人・陸游の「九月六夜夢中作笑詩覚而忘之明日戯追補一首」にも、「道得老夫輸一籌」とあります。ここでは、笑いについて語る相手に対し、自分が一籌だけ負けたと、軽く認める言い方になっています。この詩の形からも、「輸一籌」が、完全な敗北というより、相手に少し及ばないことを表す言い方として働いていたことが分かります。

明代の喬宇『遊嵩山記』にも、この表現の背景をよく示す場面があります。喬宇が中国・河南省の名山である嵩山(すうざん)に登ったとき、同行者の薛君采は白鶴観の前でひどく疲れ、山頂まで行けませんでした。喬宇は帰りに振り返って笑い、「若輸我一籌矣」と述べます。これは、山頂まで登れなかった相手に対して、「君は私に一籌だけ負けたね」と言う場面です。

日本語の古い用例では、室町時代後期の五山禅僧・景徐周麟の詩文集『翰林葫蘆集』(1518年ごろ)に、「画者与吾輸一籌」という形が出てきます。これは、画を描いた者が自分に一籌を輸した、つまり少し及ばなかったという意味で用いられています。中国文の言い方を受けた漢詩文の中で、日本でも早くから「一籌を輸する」に当たる表現が使われていたことを示しています。

近代の日本語では、芥川龍之介『侏儒の言葉』(1923〜1927年)に、「いつも彼女には一籌を輸する外はなかった」という用例があります。ここでは、相手に完全に負けるというより、知恵や立場の上で、どうしても一歩譲るほかないという意味で用いられています。

「一籌」は難しい字を含むため、のちに「一着を輸する」という形も使われるようになりました。ただし、「一着を輸する」は、「一籌を輸する」が誤って用いられるようになった言い方とされ、もとの形は「一籌」です。この点からも、この故事成語では、勝負の点数を数える「籌」という字が意味のかなめになります。

現在の「一籌を輸す」は、試合や競争だけでなく、文章のうまさ、考えの深さ、技術の高さなどを比べる場面にも使います。たった一本の籌の差という見立てがあるため、大きく負けるのではなく、惜しくも一歩及ばないという、上品で含みのある表現になっています。

「一籌を輸す」の使い方

健太
今日の計算リレー、最後の一問でともこちゃんの班に先を越されたよ。あと五秒だったのに!
ともこ
今回は健太くんの班が一籌を輸す形だったね。でも、途中までほとんど同じ速さだったよ。
健太
くやしいなあ!次は筆算をもっと正確にして、最後で追いつきたい。
ともこ
うん。差は少しだけだったから、次の練習で十分に取り返せるよ。

「一籌を輸す」の例文

例文
  • 決勝戦では最後の一球で相手に得点され、わが校のチームは一籌を輸す結果となった。
  • 二人の作文はどちらも優れていたが、表現の細やかさで兄は妹に一籌を輸す。
  • 新しい企画の発想力では、今回は若手社員の案に一籌を輸すことを認めざるを得ない。
  • 祖父の将棋の読みは深く、何度挑んでも父はまだ一籌を輸す。
  • 料理の味つけはよく似ていたが、香りの立たせ方で私は友人に一籌を輸す。
  • 資料の集め方では勝っていたものの、発表の落ち着きでは相手の班に一籌を輸す形になった。

主な参考文献
・松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・白川静『字通 普及版』平凡社、2014年。
・現代言語研究会編『日本語を使いさばく 故事ことわざの辞典』あすとろ出版、2007年。
・劉粛『大唐新語』。
・陸游『九月六夜夢中作笑詩覚而忘之明日戯追補一首』。
・喬宇『遊嵩山記』。
・景徐周麟『翰林葫蘆集』1518年ごろ。




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