【ことわざ】
飢えたる犬は棒を恐れず
【読み方】
うえたるいぬはぼうをおそれず
【意味】
困窮している者は、危険を冒すことを恐れないというたとえ。


【英語】
・Desperate times call for desperate measures(切羽詰まった時には、思い切った手段が必要になる)
・A hungry dog does not fear the stick(飢えた犬は棒を恐れない)
【類義語】
・痩せ馬鞭を恐れず(やせうまむちをおそれず)
・疲馬は鞭箠を畏れず(ひばはべんすいをおそれず)
【対義語】
・君子危うきに近寄らず(くんしあやうきにちかよらず)
・石橋を叩いて渡る(いしばしをたたいてわたる)
「飢えたる犬は棒を恐れず」の語源・由来
「飢えたる犬は棒を恐れず」は、飢えた犬が、棒で打たれる危険を前にしても食べ物を求める姿を、人間の困窮にたとえたことわざです。ここでいう「飢え」は、食べ物が足りず空腹であることを表し、「棒」は、木・竹・金属などでできた細長いものを指します。
このことわざの中心には、空腹で追いつめられた犬は、目の前の危険よりも食べ物を得ることを優先するという見方があります。「恐れる」は、身に危険を感じて心がひるむことを表すため、「棒を恐れず」は、打たれるかもしれない危険にもひるまない姿を示しています。
「犬」は、古くから人の暮らしの近くにいた動物です。猟犬、番犬、愛玩犬などとして人間に飼われてきたため、日本語のことわざでは、人の生活に身近な動物として、犬の行動や性質がよくたとえに用いられてきました。
犬に関することわざには、吠える、食べる、嚙みつくなど、犬の行動に注目したものが多くあります。「飢えたる犬は棒を恐れず」も、犬が食べ物を求める行動をもとに、人間の切迫した状態を表した言い方です。
この表現は、中国古典の特定の人物や事件にもとづく言葉ではなく、飢えた犬の姿を、そのまま人間社会のたとえにしたものです。そのため、教えの中心は、困窮が人の判断を変え、危険や罰を恐れにくくするという点にあります。
「飢えたる」は文語的な言い方で、「飢えている」という意味です。「飢えた犬は棒を恐れず」という形も見られますが、「飢えたる犬は棒を恐れず」は、よりことわざらしい古風な調子をもつ形として用いられています。
このことわざの「棒」は、犬を追い払ったり打ったりするために人が手にするものとして考えると、意味が分かりやすくなります。犬の側から見れば、その棒は危険のしるしですが、飢えが強ければ、その危険よりも食べ物への欲求が勝つという構図です。
ここから、人間についても、生活が行き詰まったり、貧しさに追いつめられたりすると、危険なことや悪いことをするのを恐れなくなる、という意味に広がりました。単なる勇敢さをほめる言葉ではなく、困窮が人を危ない行動へ押し出すという、厳しい現実を示すことわざです。
近い考え方をもつ言葉に、「痩せ馬鞭を恐れず」があります。やせ衰えた馬は鞭で打たれても恐れなくなるというたとえから、困窮した者が刑罰などを恐れなくなる意味で使われ、「飢えたる犬は棒を恐れず」と同じ発想をもっています。
また、「疲馬は鞭箠を畏れず」は、疲れきった馬がどれほど鞭で打たれても命令に従わないことから、貧苦にあえぐ人々が厳罰をも恐れなくなることを表します。この類義表現からも、ことわざの核心が「追いつめられた状態では、罰や危険の抑えがききにくくなる」という点にあることが分かります。
現在では、飢えそのものだけでなく、金銭、生活、立場などに追い込まれた人の行動を述べるときにも使います。ただし、人を責めるためだけの言葉ではなく、困窮が危険な行動を生みやすいという、社会への注意を含む言葉として受け取ることが大切です。
「飢えたる犬は棒を恐れず」の使い方




「飢えたる犬は棒を恐れず」の例文
- 収入を失って住む場所にも困った人が危険な話に乗ってしまい、飢えたる犬は棒を恐れずの状況になった。
- 生活が追いつめられると判断が荒くなり、飢えたる犬は棒を恐れずという事態を招くことがある。
- 借金に苦しむ者が違法な仕事に手を出した事件は、飢えたる犬は棒を恐れずの例として語られた。
- 食べるものにも困る状態に置かれれば、飢えたる犬は棒を恐れずで、危険を承知の行動に出る者もいる。
- 会社の倒産で生活の支えを失った人々の混乱を見て、飢えたる犬は棒を恐れずという言葉が重く響いた。
- 困窮者を放置すれば、飢えたる犬は棒を恐れずのように、社会全体に危険が広がるおそれがある。
主な参考文献
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・佐竹秀雄・武田勝昭・伊藤高雄編、北村孝一監修『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』小学館、2012年。
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・小学館『デジタル大辞泉』小学館。
・馬場俊臣「『犬』に関することわざ(2):『犬』をどう捉えてきたか」『札幌国語研究』第25号、北海道教育大学国語国文学会・札幌、2020年。
・公益財団法人日本漢字能力検定協会『漢検漢字ペディア』。























