【ことわざ】
生まれぬ先の襁褓定め
【読み方】
うまれぬさきのむつきさだめ
【意味】
物事がまだ実現していないうちから、準備や手配を早くしすぎて大げさになることのたとえ。子どもが生まれないうちから、おしめの用意に大騒ぎする意からいう。


【英語】
・put the cart before the horse(物事の順序を取り違えて先走ること)
・Don’t count your chickens before they hatch(まだ実現していないことを当てにして計画しないこと)
【類義語】
・海も見えぬに船用意(うみもみえぬにふなようい)
「生まれぬ先の襁褓定め」の語源・由来
「生まれぬ先の襁褓定め」は、赤ん坊がまだ生まれていないのに、早くもおしめのことを決めて大騒ぎする様子をもとにしたことわざです。「襁褓(むつき)」は、おしめ・おむつの意味をもち、古くは生まれたばかりの子に着せる産着も指しました。
このことわざの要点は、準備そのものを悪いとすることではありません。まだ結果も時期もはっきりしないうちから細かな手配まで決めてしまい、物事の順序を取り違えることを戒める点にあります。
古い形としては、「生ぬ先の襁褓定め」という表記もあります。また、「先」の部分を「子」とする形もあり、「生まれぬ子の襁褓定め」という形でも用いられてきました。
室町時代の用例として、『玉塵抄(ぎょくじんしょう)』(1563年・室町時代後期、惟高妙安著)に「うまれぬ子のむつき定」という形が出てきます。そこでは、まだ生まれてもいない子に名を付けて呼ぶようなことをたとえる文脈で用いられています。
『玉塵抄』は、室町時代の抄物の一つです。抄物とは、漢籍などを講義した内容を日本語で書き留めたもので、当時の話し言葉をよく伝える資料としても重んじられています。
『玉塵抄』が注釈したもとの書物は、『韻府群玉(いんぷぐんぎょく)』です。『韻府群玉』は、中国の元の時代に陰時夫が編輯し、陰中夫が編註した韻書で、1356年刊の本も伝わっています。
この古い用例では、「まだ生まれていない子」に対して名前や襁褓を考えるという、かなり具体的な場面が意識されています。つまり、まだ起きていないことを、すでに起きたかのように扱うおかしさが、ことわざの土台になっています。
のちには、赤ん坊やおしめに限らず、物事全般に対して使われるようになりました。まだ行事の日程も決まっていないのに細かな持ち物をそろえる、まだ合格していないのに進学後の予定ばかり決める、といった場面にも当てはまります。
近いことわざに「海も見えぬに船用意」があります。海も見えていないのに船の用意をする、という形で、物事を早まって行うことや、手回しがよすぎることをたとえます。
「生まれぬ先の襁褓定め」は、準備をしないほうがよいという意味ではなく、準備には順序と時期があることを教えることわざです。早さだけを重んじるのではなく、物事が確かになってから必要な手立てを考えることの大切さを表しています。
「生まれぬ先の襁褓定め」の使い方




「生まれぬ先の襁褓定め」の例文
- 旅行の日程も決まっていないのに細かな持ち物を買いそろえるのは、生まれぬ先の襁褓定めだ。
- 入部するか分からないうちから高価な道具を注文するのは、生まれぬ先の襁褓定めに近い。
- 合格発表の前に新生活の予定を細かく決めすぎると、生まれぬ先の襁褓定めになりかねない。
- 企画が通る前から会場の飾り付けまで決めるのは、生まれぬ先の襁褓定めというものだ。
- まだ雨が降ると決まっていないのに行事を中止する相談を始めるのは、生まれぬ先の襁褓定めだ。
- 生まれぬ先の襁褓定めにならないよう、まずは試合の日程を確認してから応援の準備を進める。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・公益財団法人日本漢字能力検定協会『漢検漢字ペディア』。
・惟高妙安『玉塵抄』1563年。
・陰時夫編輯、陰中夫編註『韻府群玉』1356年刊。
・Cambridge University Press, Cambridge Advanced Learner’s Dictionary & Thesaurus.























