【ことわざ】
生まれた後の早め薬
【読み方】
うまれたあとのはやめぐすり
【意味】
時機に遅れて、もう役に立たないことのたとえ。子供が生まれたあとで、出産を促す薬を飲むことからいう。


【英語】
・too little, too late(少なすぎ、遅すぎて役に立たない)
【類義語】
・火事あとの火の用心(かじあとのひのようじん)
・後の祭(あとのまつり)
・後悔先に立たず(こうかいさきにたたず)
【対義語】
・転ばぬ先の杖(ころばぬさきのつえ)
「生まれた後の早め薬」の語源・由来
「生まれた後の早め薬」は、子供がすでに生まれたあとで、お産を早めるための薬を飲んでも何の役にも立たない、というたとえから生まれたことわざです。大切なのは薬そのものではなく、「必要な時機を過ぎてからでは、どんな手当ても効き目を失う」という考えです。
「早め薬」は、お産を早めるための薬を指す言葉です。つまり、このことわざは、もともと出産に関わる具体的な言葉を使いながら、ものごとの時機を逃すことのむなしさを言い表しています。
この「早め薬」という言葉は、江戸時代の文学にも出てきます。井原西鶴の浮世草子(うきよぞうし)『世間胸算用(せけんむねさんよう)』(1692年・江戸時代前期、井原西鶴作)は、大晦日を背景に町人たちの暮らしを描いた作品です。
『世間胸算用』には、「不断医者は次の間に鍋を仕かけ、早め薬の用意」という一節があります。ここでは、出産を早める薬を用意する医者の姿が、出産をめぐるあわただしい場面の中に出てきます。
この用例から、「早め薬」という言葉が、江戸時代にはお産を早める薬として理解されていたことが分かります。ことわざの「生まれた後の早め薬」は、その薬を、もう赤ん坊が生まれたあとに飲むという、明らかに遅すぎる場面に置き換えています。
薬は、本来、必要な時に用いてこそ役に立ちます。けれども、出産が終わったあとでは、出産を早める薬は目的を失ってしまいます。
このため、「生まれた後の早め薬」は、単に「遅い」というだけでなく、「その時点では、もう目的を果たせない」という意味を含みます。失敗のあとに準備を始めたり、期限が過ぎてから対策を考えたりするような場面によく当てはまります。
同じ発想のことわざに、「火事あとの火の用心」があります。火事が起こったあとで火の用心をしても間に合わないという意味で、「生まれた後の早め薬」と同じく、時機を逃した対策のむなしさを表します。
また、「後の祭」も、時機遅れでむだになることを表す言葉です。こちらは、祭りのあとに出す山車のように、出すべき時を過ぎてしまったものの無益さをたとえます。
一方で、「転ばぬ先の杖」は、失敗する前に用心しておくことを表します。これと比べると、「生まれた後の早め薬」は、先に手を打たず、必要な時を過ぎてから動くことへの戒めとして、意味がいっそうはっきりします。
現在では、出産や薬の場面に限らず、締め切り、事故、試験、仕事、約束など、時機を逃した行動全般に用いられます。ものごとは、役に立つ時に行ってこそ意味があるという教えを、具体的で覚えやすいたとえにしたことわざです。
「生まれた後の早め薬」の使い方




「生まれた後の早め薬」の例文
- 試験が終わってから参考書を買っても、生まれた後の早め薬だ。
- 遠足の出発後に雨具を学校へ届けても、生まれた後の早め薬になってしまう。
- 締め切りを過ぎてから資料を集め始めるのは、生まれた後の早め薬というものだ。
- 商品が売り切れてから広告を出しても、生まれた後の早め薬で効果は薄い。
- けがをしたあとで安全確認の方法を決めるのでは、生まれた後の早め薬になりかねない。
- 発表会が終わってから台本を直す相談をしても、生まれた後の早め薬だ。
主な参考文献
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・井原西鶴『世間胸算用』1692年。
・Merriam-Webster, 『Merriam-Webster.com Dictionary』Merriam-Webster Incorporated、2026年。























