【ことわざ】
榎の実はならばなれ、木は椋の木
【読み方】
えのみはならばなれ、きはむくのき
【意味】
道理にかなっていなくても自分の主張を曲げないこと。強情で、人の意見や明らかな事実を受け入れないことのたとえ。


【英語】
・stick to one’s guns(反対されても自分の考えを変えない)
【類義語】
・這っても黒豆(はってもくろまめ)
・鷺を烏(さぎをからす)
・椋は生っても木は榎(むくはなってもきはえのき)
【対義語】
・過ちては改むるに憚ること勿れ(あやまちてはあらたむるにはばかることなかれ)
「榎の実はならばなれ、木は椋の木」の語源・由来
「榎の実はならばなれ、木は椋の木」は、榎(えのき)と椋(むくのき)が似ており、見まちがえやすいことをもとにしたことわざです。榎の木を椋の木だと言い出した人が、榎の実がなっても、なお「これは椋の木だ」と言い張る様子から、明らかな事実を前にしても主張を変えない強情さを表します。
榎は落葉高木で、秋に橙色または黄赤色の実を結びます。実は小さく甘く、食べられるものとしても知られています。
椋の木も落葉高木で、実は黒く熟し、食べられます。葉がざらつくため、物を磨くのに用いられたこともあり、材は器具などにも使われました。
このことわざで大切なのは、木の名前そのものよりも、「実がなった」というはっきりした証拠が出ている点です。実によって榎だと分かるはずなのに、それでも最初の言い分を変えないところに、強情な人への批判がこめられています。
表記には、「榎の実は生らば生れ木は椋の木」「榎の実は成らば成れ、木は椋の木」のような形もあります。「ならばなれ」は、「実がなるならなるがよい」という意味を含み、たとえ実がなっても自分の言い分は変えない、という開き直った調子を表します。
同じ考えを表す言い方に、「椋は生っても木は榎」や「椋の木の下にて榎の実を拾う」があります。いずれも、木と実の食い違いを材料にして、無理な主張を押し通す態度をたとえています。
ただし、「椋は生っても木は榎」は、形の上では木と実の取り合わせが反対になります。もとの発想は共通しており、目の前の事実と自分の主張が合わなくなっても、なお言い張ることを笑い、戒める言い方です。
このことわざは、中国古典の人物や歴史的事件に由来するものではなく、日本語の中で、身近な木の見分けにくさをもとに生まれた表現です。榎と椋が似ているという具体的な事情から、ものごとの道理を認めない態度をたとえる言葉へ広がりました。
似た意味の「這っても黒豆」は、小さな黒いものが動き出して虫だと分かっても、なお黒豆だと言い張るたとえです。どちらも、明らかな反証が出ているのに自説を曲げない頑固さを表します。
また、「鷺を烏」は、白い鷺を黒い烏だと言い張るように、道理を無理に曲げて主張することを表します。榎と椋のことわざも、鷺と烏のことわざも、事実を見ずに言い分だけを通そうとする態度を戒めています。
現在では、植物そのものを話題にする場合だけでなく、会議、勉強、友人関係、家庭での話し合いなどにも使えます。証拠や説明を示されても誤りを認めない人に対して、「榎の実はならばなれ、木は椋の木」のようだ、とたとえるのです。
このことわざは、意見を持つことの大切さではなく、誤りが分かったあとも改めないことの危うさを教えています。自分の考えを守る強さと、事実を受け入れて直す素直さとは、分けて考える必要があるという教えにつながっています。
「榎の実はならばなれ、木は椋の木」の使い方




「榎の実はならばなれ、木は椋の木」の例文
- 計算の答えが違うと分かっても直さない態度は、榎の実はならばなれ、木は椋の木そのものだ。
- 資料に反対の証拠が出ているのに主張を変えないのは、榎の実はならばなれ、木は椋の木と言われても仕方がない。
- 弟は時計を見ても遅刻していないと言い張り、榎の実はならばなれ、木は椋の木のようだった。
- 会議で誤りを指摘されても認めない部長の姿に、榎の実はならばなれ、木は椋の木という言葉を思い出した。
- 友人の助言を聞かず、失敗しても自説を曲げない彼は、榎の実はならばなれ、木は椋の木に近い。
- 事実を確かめずに言い張るだけでは、榎の実はならばなれ、木は椋の木になってしまう。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・中川木材産業株式会社『木のことわざ(諺)辞典』。
・A. S. Hornby『Oxford Advanced Learner’s Dictionary』Oxford University Press。























