【ことわざ】
えせ侍の刀いじり
【読み方】
えせざむらいのかたないじり
【意味】
実力や胆力のない者ほど、強そうに見せかけて虚勢を張り、人を脅そうとすることのたとえ。


【英語】
・Empty vessels make the most noise(中身のない器ほど大きな音を立てる)
・Someone’s bark is worse than their bite(言葉はきついが、実際の力や行動はそれほどではない)
【類義語】
・張子の虎(はりこのとら)
・空樽は音が高い(あきだるはおとがたかい)
・吠える犬は噛みつかぬ(ほえるいぬはかみつかぬ)
【対義語】
・能ある鷹は爪を隠す(のうあるたかはつめをかくす)
「えせ侍の刀いじり」の語源・由来
「えせ侍の刀いじり」は、武士らしくない侍が、実際には胆力がないのに、人前で刀を振り回して脅そうとする姿をもとにした言い方です。そこから、実力が伴わない者ほど、外見だけを強く見せようとすることを表すことわざになりました。
「えせ」は「似非」とも書き、見かけはそれらしくても本物ではないこと、また、備えるべき性質や技量が欠けていることを表します。「えせざむらい」という形も、この用法の中に含まれます。
「似非」という表記は、「似て非なり」という考えとつながります。「似て非なり」は『孟子(もうし)』尽心下(じんしんげ)に由来し、外見は似ていても中身は違うもの、まがいものを表します。
ただし、日本語の「えせ」は、漢文の形だけで生まれた言葉ではなく、古くから「劣っている」「つまらない」「本来あるべきものが欠けている」という意味でも使われてきました。『枕草子(まくらのそうし)』(10世紀末〜11世紀初めごろ成立・平安時代中期、清少納言著)には、「えせなる男親」という用例が出てきます。
また、『宇治拾遺物語(うじしゅういものがたり)』(建保年間、1213〜1219年ごろ成立か・鎌倉時代初期、編者未詳)にも、「えせ牛ならましかば」という用例が出てきます。ここでも「えせ」は、十分な性質を備えないものを軽く見る言葉として使われています。
「侍」は、もとは目上の人のそばに仕える者を表す言葉でした。のちに、武力をもって主君に仕える者、つまり武士を指すようになり、時代がくだると、武士階級の中でも比較的上層の身分を表す場合がありました。
「刀」は、武器として使う片刃の刃物を指します。江戸時代には、武士が脇差(わきざし)とともに差した大刀(だいとう)を表す意味もあり、武士の身分や威厳を示すものとして受けとめられてきました。
「いじり」は、動詞「いじる」の名詞化で、手でいじることを表します。このことわざでは、刀を実際に使う力や覚悟があるというより、ただ刀に手をかけたり、もてあそんだりして、相手に強そうな印象を与えようとする動作を指しています。
この言い方の大切な点は、「刀」という強い道具そのものよりも、それを扱う人の中身にあります。本当に力や勇気がある人なら、むやみに見せびらかして相手を脅す必要はありません。
「虚勢を張る」とは、外見だけは力があるように見せ、自分の弱いところを隠すために強がることです。「えせ侍の刀いじり」は、その虚勢を、武士らしくない侍と刀の姿にたとえて言い表したことわざです。
現在では、実際の侍や刀の話としてだけでなく、実力が足りない人が大きな口をきいたり、派手な態度で相手をおどしたりする場面に使います。相手をむやみに悪く言うためではなく、見かけの強さと本当の力を取り違えないよう戒める言葉として理解するとよいでしょう。
「えせ侍の刀いじり」の使い方




「えせ侍の刀いじり」の例文
- 実力も準備もないのに相手を見下す態度は、えせ侍の刀いじりそのものだ。
- 会議で大声ばかり出して具体案を出さない彼の発言は、えせ侍の刀いじりに近い。
- えせ侍の刀いじりと言われないように、結果で力を示す必要がある。
- 試合前に相手を脅すような言葉を並べても、えせ侍の刀いじりにしかならない。
- 高価な道具を見せびらかすだけで腕を磨かないのは、えせ侍の刀いじりである。
- 部下を威圧してばかりの上司は、周囲からえせ侍の刀いじりと受け取られていた。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・公益財団法人日本漢字能力検定協会編『漢検 漢字辞典 第二版』日本漢字能力検定協会、2014年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・『孟子』尽心下。























