【故事成語】
炎に付き寒に棄つ
【読み方】
えんにつきかんにすつ
【意味】
勢いのあるときには人が寄り集まり、勢いが衰えると離れていくこと。人の情が軽く、利害によって変わりやすいことのたとえ。


【英語】
・fair-weather friend(順調なときだけ友人でいる人)
【類義語】
・炎に趨り熱に付く(えんにはしりねつにつく)
・趨炎附熱(すうえんふねつ)
・趨炎附勢(すうえんふせい)
【対義語】
・一視同仁(いっしどうじん)
「炎に付き寒に棄つ」の故事
「炎に付き寒に棄つ」は、「炎にして付き、寒にして棄つ」ともいう言い方です。勢いの盛んな人には近づき、勢いが衰えると離れていくことを表し、利害によって変わる人づきあいを戒める言葉です。
この言葉は、中国・唐代の文学者である柳宗元(773〜819)の「宋清傳」にもとづきます。柳宗元は中唐の文人・政治家で、唐宋八大家の一人に数えられる人物です。
「宋清傳」は、長安の西部にある薬市で薬を扱っていた宋清という人物を描いた文章です。宋清は良い薬を扱い、医者や病人から信頼されていました。
宋清は、金を持たない人にも薬を与え、代金の証文が山のように積もっても、むやみに取り立てませんでした。年の終わりに返せないと分かると、その証文を焼き、それ以上は何も言いませんでした。
町の人々は、宋清のやり方を変わっていると笑いました。しかし宋清は、目先の小さな利益ではなく、長い時間をかけて大きな信頼を得る商いをしていました。
宋清が薬を与えた人の中には、後に高い官職についた者もいました。その人々は、成功した後に宋清へ厚く報いたため、宋清は結果として豊かになっていきました。
「宋清傳」には、落ちぶれたり退けられたりした人に対しても、宋清は態度を変えず、以前と同じように良い薬を与えたとあります。のちにその人が再び用いられると、いっそう厚く宋清に報いました。
この話のあとで、柳宗元は、当時の人づきあいについて「炎而附,寒而棄」と述べています。これは、勢いのある人には寄りつき、落ち目の人は見捨てる、という意味です。
ここでいう「炎」は、単なる火の炎ではなく、熱く盛んな権勢をもつ人のたとえです。古い漢語では、「炎」が権勢ある人をたとえる語としても使われます。
一方の「寒」は、勢いが衰え、恵まれない状態を表す語として対になっています。「炎」と「寒」を並べることで、人が相手の境遇によって態度を変えるさまが、はっきりと描かれています。
この言葉が今の意味につながるのは、宋清の態度と世間の人づきあいが対比されているためです。宋清は落ち目の人にも変わらず接しましたが、世間の人は相手が栄えているときだけ近づき、衰えると離れていきました。
後には、「炎にして付き、寒にして棄つ」という日本語の形で、勢力のあるときには人が集まり、衰えると寄りつかないことをいう言葉として用いられるようになりました。
また、同じ発想をもつ言葉に「炎に趨り熱に付く」や「趨炎附熱」があります。どちらも、勢いの強い権力者に近づき、機嫌を取る態度を表します。
「炎に付き寒に棄つ」は、単に人が離れていくことだけをいうのではありません。相手の人格や恩義ではなく、勢い・地位・利益だけを見て近づいたり離れたりする軽薄さを戒める言葉です。
現在の使い方でも、会社・学校・地域・友人関係などで、相手が成功している間だけ親しげにし、困ったとたんに離れる態度を批判するときに用いられます。人づきあいのまことを考えさせる、鋭い故事成語です。
「炎に付き寒に棄つ」の使い方




「炎に付き寒に棄つ」の例文
- 有名になったとたんに人が集まり、失敗すると離れていく様子は、炎に付き寒に棄つそのものだった。
- 会社の業績がよいときだけ取引を求め、苦しくなると手を引く相手に、炎に付き寒に棄つという言葉が当てはまる。
- 優勝候補だったころは応援していたのに、成績が落ちると背を向けるのは、炎に付き寒に棄つ態度だ。
- 友人が困っているときに離れてしまうなら、炎に付き寒に棄つと見られても仕方がない。
- 人の地位や人気だけを見て近づく者は、炎に付き寒に棄つ人として信頼されにくい。
- 祖父は、相手が苦しいときこそ支えるべきで、炎に付き寒に棄つような交わりをしてはならないと教えた。
主な参考文献
・集英社『imidas 会話で使えることわざ辞典』集英社。
・佐竹秀雄・武田勝昭・伊藤高雄編、北村孝一監修『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』小学館、2012年。
・星川清孝著『新釈漢文大系 71 唐宋八大家文読本 2』明治書院、1976年。
・柳宗元「宋清傳」唐代。
・公益財団法人日本漢字能力検定協会『漢字ペディア』。
・Cambridge University Press, Cambridge Dictionary.























