【ことわざ】
大きな魚が小さな魚を食う
【読み方】
おおきなさかながちいさなさかなをくう
【意味】
権力や勢力の強い者が、弱い者を圧迫し、利益を奪うことのたとえ。


【英語】
・Big fish eat little fish(強い者が弱い者を支配する)
【類義語】
・弱肉強食(じゃくにくきょうしょく)
「大きな魚が小さな魚を食う」の語源・由来
「大きな魚が小さな魚を食う」は、大形の魚が小形の魚を餌にする自然界の姿を、人間社会の力関係に置き換えた言葉です。魚の大きさは、体そのものではなく、権力・財力・組織力などの強さを表しています。
この発想の古い前段階は、紀元前8世紀のギリシャ詩人ヘシオドスが著した『仕事と日』にさかのぼります。同書には、魚や獣や鳥は互いに食い合うが、人間には正義が与えられたという趣旨の一節があります。
ヘシオドスの一節には、まだ「大きな魚」と「小さな魚」の対照はありません。しかし、力によって食い合う動物の世界と、正義を守るべき人間の社会とを比べる考えが、後のことわざにつながる古い背景となりました。
その後、ヨーロッパでは、「大きな魚が小さな魚を食う」という大小の対照をもつ形が広まり、さまざまな言語へ伝わりました。強い者が弱い者を犠牲にする人間社会のあり方を、短い言葉で批判することわざとして用いられるようになったのです。
このことわざを目に見える形で表した有名な作品が、ネーデルラントの画家ピーテル・ブリューゲル(父)の素描(そびょう)です。原画は1556年に描かれ、翌1557年には、ピーテル・ファン・デル・ヘイデンによって版画『大きな魚は小さな魚を食う』となりました。
版画には、岸へ引き上げられた巨大な魚の腹や口から、大小さまざまな魚があふれ出す様子が描かれています。手前の父親は、その光景を息子に示し、大きな魚が小さな魚を食べることは以前から知っていた、という教訓を伝えています。
版画の上部には、「GRANDIBVS EXIGVI SVNT PISCES PISCIBVS ESCA.」というラテン語が刻まれています。これは、小さな魚は大きな魚の餌になるという意味で、その下には、同じ内容を日常の言葉で表したフランドル語の文章が添えられています。
ブリューゲルが、このことわざを作ったわけではありません。すでに伝わっていた古い言葉を、巨大な魚の中からさらに多くの魚が現れる奇抜な構図によって表し、強者が弱者を次々にのみ込む社会の不条理を印象深く示したのです。
ウィリアム・シェイクスピアとジョージ・ウィルキンズの合作と考えられている『ペリクリーズ』(1607年末から1608年初めごろ成立)にも、同じ比喩が出てきます。漁師が、陸上の人間も海の魚と同じように、大きな者が小さな者を食い尽くすと語り、金持ちを、小魚を追い立てて一口にのみ込む鯨にたとえています。
バールーフ・デ・スピノザの『神学政治論(しんがくせいじろん)』(1670年)第16章にも、大きな魚が小さな魚を食うという表現があります。ここでは、自然の中では、それぞれのものが自らの力に従って行動するという自然権(しぜんけん)の考えを示す例として使われています。
日本では、存厓居士編『一語千金―西洋諺喩(いちごせんきん―せいようげんゆ)』(1888年・明治時代)に、西洋のことわざとして「大魚小魚を食み」という形が収められました。少なくとも明治時代には、大小の魚を強者と弱者にたとえる言い方が、日本語で紹介されていたことが分かります。
「大魚小魚を食み」という簡潔な形と、現在の「大きな魚が小さな魚を食う」とが、いつ、どのように置き換わったのかは明らかではありません。ただし、どちらも、大きな魚を強者、小さな魚を弱者に見立てる点で、意味の骨格は共通しています。
現在の使い方では、力の強い者が競争に勝つことすべてを指すのではありません。強い立場を利用して弱い者を一方的に苦しめたり、権利や利益を奪ったりする場合に用いる、批判的な意味の強いことわざです。
「大きな魚が小さな魚を食う」の使い方




「大きな魚が小さな魚を食う」の例文
- 大企業が資金力に任せて小さな競争相手を次々に買収する様子は、大きな魚が小さな魚を食うという光景そのものだ。
- 領主が弱い立場の農民から重い税を取り立てる社会では、大きな魚が小さな魚を食うことが繰り返された。
- 大きな魚が小さな魚を食うような取引を防ぐため、公平な規則が設けられた。
- 小国が大国の力によって次々にのみ込まれる歴史を、筆者は大きな魚が小さな魚を食うと表した。
- 力のある者が声の小さい人々の権利を奪えば、大きな魚が小さな魚を食う社会になる。
- その業界では大きな魚が小さな魚を食う競争が続き、地域の小さな店が相次いで姿を消した。
主な参考文献
・小学館大辞泉編集部編、松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・Wolfgang Mieder, Tradition and Innovation in Folk Literature, University Press of New England, 1987.
・ヘシオドス『仕事と日』紀元前8世紀ごろ。
・ピーテル・ブリューゲル(父)原案、ピーテル・ファン・デル・ヘイデン彫版『大きな魚は小さな魚を食う』1557年。
・ウィリアム・シェイクスピア、ジョージ・ウィルキンズ『ペリクリーズ』1608年ごろ。
・バールーフ・デ・スピノザ『神学政治論』1670年。
・存厓居士編『一語千金―西洋諺喩』藍外堂、1888年。























