【ことわざ】
風吹けば木安からず
【読み方】
かぜふけばきやすからず
【意味】
事件や問題が起こると、その影響を受けて人の心も落ち着かなくなるというたとえ。


【類義語】
・風声鶴唳(ふうせいかくれい)
・草木皆兵(そうもくかいへい)
【対義語】
・風は吹けども山は動ぜず(かぜはふけどもやまはどうぜず)
「風吹けば木安からず」の語源・由来
「風吹けば木安からず」は、風と木という身近な自然の姿をもとにしたことわざです。風が吹けば木の枝や葉は揺れ、静かなままではいられません。その様子を、人の心が外からの出来事に揺らぐことに移した表現です。
「風」は、もともと空気の流れを表す言葉です。『古事記』(712年・奈良時代、太安万侶編)には「木の葉さやぎぬ 加是吹かむとす」という歌があり、風が吹こうとして木の葉がざわめく情景を表しています。
「木」は、地上部の茎が木質化した植物、つまり樹木を指す言葉です。風を受けると枝や葉が動く木の姿は、昔から人の心や世の中の動きをたとえる材料として用いられやすいものでした。
「安からず」のもとになる「安い」は、古くは値段の安さだけでなく、物事のなりゆきに不安がないこと、平穏で安心していられることも表しました。『源氏物語』(1001〜1014年ごろ成立、平安時代中期)にも「ましてやすからず」という用例があり、心が穏やかでない状態を表す言い方として使われています。
したがって「木安からず」は、木が安心しているという意味ではなく、風を受けた木が、静かで安定した状態にないという比喩として読むことができます。そこから、外から出来事が起これば、人の心も静かではいられないという意味につながります。
このことわざの考え方に近い古い表現として、日蓮の『日厳尼御前御返事』(1280年・鎌倉時代)には「風ふけば木ゆるぐごとく」とあります。ここでは、風が吹けば木が揺れるという自然の道理を、人の心や信心のあり方を説明するたとえとして使っています。
この古い表現は、「風吹けば木安からず」そのものの形ではありません。しかし、風が吹くと木が揺れるという見立てが、人の心の動きや物事の変化を説明する比喩として、早くから使われていたことを示しています。
ことわざは、生活の中で感じたことや世の中の道理を、短く覚えやすい形で言い表す言葉です。「風吹けば木安からず」も、風と木という目に見える自然の動きを使って、人の心の不安という目に見えにくいものを分かりやすく表しています。
また、このことわざでは、「風」が事件や問題、「木」がその影響を受ける人々の心に当たります。風が強ければ木が大きく揺れるように、出来事が大きければ人々の不安も広がりやすくなります。
反対に、「風は吹けども山は動ぜず」は、混乱の中でも少しも動じないことを表します。木は風に揺れ、山は風に動かないという違いによって、動揺する心と動じない心が対照的に表されています。
現在の「風吹けば木安からず」は、単に木が揺れることを言うのではなく、事件やうわさが起きたときに、人の心がざわつき、落ち着きを失うことを言うことわざとして使われます。自然の姿から人の心理を説明する、分かりやすく端正なたとえです。
「風吹けば木安からず」の使い方




「風吹けば木安からず」の例文
- 近所で事故が起き、風吹けば木安からずで、住民の間に不安が広がった。
- 会社の急な方針変更に、風吹けば木安からずというように社員たちは落ち着かなくなった。
- 学校の近くで不審な出来事があり、風吹けば木安からずで保護者から問い合わせが相次いだ。
- 小さなうわさでも、風吹けば木安からずで、周囲の人々の心を乱すことがある。
- 町内で停電が続き、風吹けば木安からずというように、商店街にも心配そうな空気が漂った。
- 大事な試合の前に主将がけがをしたと聞き、風吹けば木安からずでチーム全体が動揺した。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修『デジタル大辞泉』小学館。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・太安万侶編『古事記』712年。
・紫式部『源氏物語』1001〜1014年ごろ成立。
・日蓮『日厳尼御前御返事』1280年。























