【ことわざ】
杵で当たり杓子で当たる
【読み方】
きねであたりしゃくしであたる
【意味】
何かにつけて人や物に当たり散らすこと。怒りや不満を、関係のない相手にぶつけること。


【英語】
・take it out on someone.(人に八つ当たりする)
・lash out at someone.(人に怒って攻撃的に言う)
【類義語】
・杵に当たり臼に当たる(きねにあたりうすにあたる)
・杵棒に当たる(きねぼうにあたる)
【対義語】
・該当する対義語は確認しにくい
「杵で当たり杓子で当たる」の語源・由来
「杵で当たり杓子で当たる」は、怒りや不満を、目の前にある道具にまでぶつけるような様子をたとえた言い方です。杵(きね)は、臼(うす)の中に入れた穀物や餅をつくための木製の道具を指します。
杓子(しゃくし)は、飯を盛ったり、汁などをすくったりする道具です。頭が丸く、くぼみのある皿形で、柄がついているものを指します。
このことわざでは、「杵」と「杓子」という、台所や食べ物の支度に関わる身近な道具が並べられています。人に当たるだけでなく、物にまで当たるほど、怒りの向け先を選ばない様子が表されています。
「当たる」は、ここでは物理的にぶつかることだけでなく、怒りをぶつける、つらく当たるという意味で働いています。そのため、「杵で当たり杓子で当たる」は、道具を使って何かをするという意味ではなく、むやみに怒り散らす人の態度を表す言葉です。
古い用例は、江戸時代中期の浄瑠璃『淀鯉出世滝徳』(1709年ごろ、近松門左衛門作)にあります。この作品の上巻には、「お心にしたがはぬ恨みを、きねであたりしゃくしであたる御仕方か」という形で出てきます。
この用例では、自分の思いどおりにならない恨みを、あたりかまわずぶつける振る舞いとして、この言い方が用いられています。相手を責める気持ちが、関係のないものにまで広がる様子を、身近な道具に当たる姿で表しているのです。
『淀鯉出世滝徳』は、1709年に大坂で義太夫節の浄瑠璃として上演された記録があります。義太夫節は、17世紀後半に竹本義太夫が生み出した浄瑠璃の語りで、近松門左衛門は竹本座の作者として多くの作品を書きました。
江戸時代の浄瑠璃は、町人の暮らしや人間関係の心の動きを、観客に分かりやすい言葉で描くことが多い芸能でした。このことわざも、身近な生活道具を取り上げることで、怒りを抑えられずに八つ当たりする姿を、聞く人にすぐ伝わる形にしています。
同じ意味をもつ近い形に、「杵に当たり臼に当たる」や「杵棒に当たる」があります。どちらも、怒りの原因とは別のものにまで当たり散らすという考えを含んでいます。
現在の「杵で当たり杓子で当たる」は、単に怒ることではなく、怒りをぶつける相手を選ばず、関係のない人や物にまできつく当たることを表します。怒りの原因と、怒りを向けられる相手がずれているところに、このことわざの大切な意味があります。
「杵で当たり杓子で当たる」の使い方




「杵で当たり杓子で当たる」の例文
- 弟はゲームに負けた腹いせに家族へ怒鳴り、杵で当たり杓子で当たるような態度を取った。
- 部長は会議で注意されたあと、部下にまできつく当たり、杵で当たり杓子で当たる状態だった。
- 宿題を忘れたのは自分なのに、健太は鉛筆に文句を言い、杵で当たり杓子で当たるようだった。
- 母は忙しさでいらだっていたが、杵で当たり杓子で当たることのないよう深呼吸した。
- 友人の失敗まで責め始めた彼の言い方は、杵で当たり杓子で当たるものだった。
- 不満があるなら理由を話すべきで、杵で当たり杓子で当たるように周りへ怒りをぶつけるのはよくない。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・佐竹秀雄・武田勝昭・伊藤高雄編、北村孝一監修『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』小学館、2012年。
・松村明監修『デジタル大辞泉』小学館。
・近松門左衛門『淀鯉出世滝徳』1709年ごろ。























