【ことわざ】
木は規に依って直く人は人に依って賢し
【読み方】
きはきによってなおくひとはひとによってかしこし
【意味】
曲がった木が定規を当てて削ることでまっすぐになるように、人もさまざまな人と交わることで賢くなるということ。


【英語】
・As iron sharpens iron, so one person sharpens another.(鉄が鉄を研ぐように、人も互いに相手を磨く)
【類義語】
・人は人中(ひとはひとなか)
・木は縄をもって直にす(きはなわをもってすぐにす)
「木は規に依って直く人は人に依って賢し」の語源・由来
「木は規に依って直く人は人に依って賢し」は、木材を道具によってまっすぐに整える仕事を、人が他者との交わりによって賢くなることに重ねたことわざです。「木」と「規」、「人」と「人」を並べ、二つの事柄を「依って」で結ぶことで、外から受ける働きかけの大切さを印象深く表しています。
このことわざの「規」は、木材を測り、形を整えるための定規やさしがねの意味で用いられています。さしがねは、大工が木材の長さや直角を測るために使う、直角に折れ曲がった物差しです。曲がった木材も、正しい基準を当てて削れば、使いやすいまっすぐな材木になります。
現在の形に近い古い用例は、人形浄瑠璃(にんぎょうじょうるり)の『加賀国篠原合戦(かがのくにしのはらがっせん)』(1728年・江戸時代中期、竹田出雲・長谷川千四作)に出てきます。この作品は、享保13年、すなわち1728年に初演された義太夫節の浄瑠璃です。
第三段では、作中の今井が相手の道理を聞いて納得する場面に続いて、このことわざが用いられています。「今井もはっと理に伏し」とあることから、単に人と一緒にいればよいという意味ではなく、他者のもっともな意見を受け入れることで考えを改め、より賢明になるという文脈で使われていることが分かります。
ただし、木を道具でまっすぐにする比喩そのものは、『加賀国篠原合戦』よりもはるかに古くからありました。『三教指帰(さんごうしいき)』(797年・平安時代初期、空海著)には、「木従縄直」という表現があり、曲がった木も墨縄(すみなわ)に従えばまっすぐになることを表しています。日本では、少なくとも平安時代初期に、この比喩が漢文の形で用いられていました。
さらに、その背景には、中国の思想書『荀子(じゅんし)』(紀元前3世紀ごろ成立、荀況とその学派による)の「勧学」にある「木受縄則直、金就礪則利」という言葉があります。木は墨縄を当てて加工すればまっすぐになり、刃物は砥石(といし)で研げば鋭くなるという意味で、人が学びと反省を重ねて自分を磨くことの大切さを説いています。
『荀子』や『三教指帰』では、木と墨縄との関係によって、教育や規律が人を正しく導くことを表していました。一方、「木は規に依って直く人は人に依って賢し」では、後半に「人は人に依って賢し」が加わり、学びの相手が同じ人間であることを、はっきりと示しています。古くから伝わる木材加工の比喩を、人と人との学び合いへ広げた表現といえます。
「規」が木にとっての正しい基準となるように、人にとっては、先生の教え、友人の意見、先人の経験などが成長の手がかりになります。また、自分が他者から学ぶだけでなく、自分の言葉や行いが別の人を賢くすることもあります。人は、教えられる側にも教える側にもなれるという意味を含んだことわざです。
このように、「木は規に依って直く人は人に依って賢し」は、木材を正しい道具で整える具体的な仕事をもとに、人は孤立して賢くなるのではなく、他者と交わり、教えや意見を受け入れることで成長するという道理を表しています。人との出会いや対話を、学びを支える大切な力として捉えた言葉です。
「木は規に依って直く人は人に依って賢し」の使い方




「木は規に依って直く人は人に依って賢し」の例文
- 先生の助言を素直に受け入れる姿を見て、木は規に依って直く人は人に依って賢しとはこのことだと思った。
- 木は規に依って直く人は人に依って賢しというように、友人との話し合いによって自分の考えの誤りに気づいた。
- 祖父は、若いうちに多くの人と交流するよう、木は規に依って直く人は人に依って賢しと孫に教えた。
- 異なる経験をもつ社員が意見を出し合う職場は、木は規に依って直く人は人に依って賢しをよく表している。
- 木木は規に依って直く人は人に依って賢しだからこそ、一人で悩まず、詳しい人の教えを求めることが大切だ。
- 地域の人々との交流を重ねた生徒たちは、木は規に依って直く人は人に依って賢しの言葉通り、大きく成長した。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・佐竹秀雄・武田勝昭・伊藤高雄編、北村孝一監修『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』小学館、2012年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・竹田出雲・長谷川千四『加賀国篠原合戦』1728年。
・空海『三教指帰』797年。
・荀況『荀子』紀元前3世紀ごろ成立。
・『Holy Bible, New International Version』Biblica,2011.























