【ことわざ】
轡の音にも目をさます
【読み方】
くつわのおとにもめをさます
【意味】
わずかな物音や変化にもすぐ気づくほど、用心深く敏感であること。また、仕事や立場を通して身についた鋭い感覚や習性。


【英語】
・be on the alert.(危険に備えて警戒している)
【類義語】
・石橋を叩いて渡る(いしばしをたたいてわたる)
【対義語】
・枕を高くして寝る(まくらをたかくしてねる)
「轡の音にも目をさます」の語源・由来
轡(くつわ)は、馬の口にかませ、手綱(たづな)をつけるための金具です。このことわざは、その轡が立てるわずかな音にも武士が目を覚ますほど、常に油断なく身構えていた姿をたとえたものです。
「轡」という言葉そのものは古く、『新撰字鏡(しんせんじきょう)』(898〜901年ごろ・平安時代前期、昌住著)にも、馬具の名として記録されています。轡は鉄や銅などで作られ、馬を操るために用いられてきた具体的な道具でした。
この言い回しの古い用例は、『嬢景清八嶋日記(むすめかげきよやしまにっき)』(1764年・江戸時代中期、若竹笛躬・黒蔵主・中邑阿契合作)にあります。作品には、「心がけ有る侍は轡の音に目を覚ます」と記されています。
この場面では、大酒を飲んで正体をなくしていた武士の五斗が、鉄砲の響きにむくりと起き上がり、その音の調子をすぐに聞き分けます。語り手は、この驚くべき反応を示す場面で「諺に云伝ふ」と述べ、すでに世間で知られていた言い回しとして、「心がけ有る侍は轡の音に目を覚ます」を持ち出しています。
ここで表されているのは、単に眠りが浅いということではありません。ふだんは酔っていても、武士として鍛えた耳と備えは失われず、危険につながる音には即座に反応するという姿です。そのため、このことわざには、用心深さだけでなく、長い経験によって身についた鋭い感覚という意味も含まれています。
江戸時代の用例では、「轡の音に目を覚ます」となっており、「音に」という形が使われています。大町桂月の『筆のしづく(ふでのしずく)』(明治44年、大町桂月著)には、「心掛ある武夫は、轡の音にも、目をさます」とあり、「にも」を用いた現在に近い形が見られます。
『筆のしづく』では、「女郎」という言葉を聞いて目を覚ました男を、このことわざになぞらえています。武士が危険を知らせる音に反応する姿を、別の言葉に敏感に反応する男へと重ねた、少しこっけいな使い方です。このような用例から、明治時代には、もとの意味を踏まえ、人の習性を表す言い方としても用いられていたことが分かります。
このように、「轡の音にも目をさます」は、もとは武士がわずかな音にも油断しない姿を表す言い方でした。そこから意味が広がり、現在では、危険や異変をすばやく察する用心深さのほか、職業や経験を通して身についた鋭い感覚を表すことわざとして使われています。「目をさます」と仮名で書く形のほか、「目を覚ます」と漢字で書く形も用いられます。
「轡の音にも目をさます」の使い方




「轡の音にも目をさます」の例文
- 夜警を務める祖父は、門のわずかなきしみにも気づく、轡の音にも目をさます人だった。
- 長年機械を扱ってきた職人は、轡の音にも目をさますように、いつもと違う響きを聞き分けた。
- 看護師は、轡の音にも目をさますほど注意深く、患者の呼吸の小さな変化を察した。
- 母は、轡の音にも目をさますように、赤ん坊のかすかな寝返りにもすぐ気づいた。
- 防災の担当者は、轡の音にも目をさます心構えで、警報装置の変化を見守った。
- 新聞記者は、轡の音にも目をさますような鋭さで、会見中の短い言いよどみを聞き逃さなかった。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・現代言語研究会著『日本語を使いさばく 故事ことわざの辞典』あすとろ出版、2007年。
・Oxford University Press, 『Oxford Advanced Learner’s Dictionary 第10版』Oxford University Press,2020.
・昌住『新撰字鏡』898〜901年ごろ。
・若竹笛躬・黒蔵主・中邑阿契『嬢景清八嶋日記』1764年。
・大町桂月『筆のしづく 増訂』公文書院、1911年。























