【ことわざ】
口は重宝
【読み方】
くちはちょうほう
【意味】
口先では何とでも都合よく言えるが、実際は言葉どおりではないこと。相手の発言に裏があるとして、非難や不信を込めていう言葉。


【英語】
・Talk is cheap.(何かをすると言うだけならたやすい)
【類義語】
・口では大坂の城も建つ(くちではおおさかのしろもたつ)
「口は重宝」の語源・由来
「口は重宝」の「口」は、物を食べたり声を出したりする体の一部から転じて、話すことや言葉を表しています。「重宝」は、このことわざでは、貴重な宝物という意味ではなく、「便利である」「都合がよい」という意味です。したがって、言葉どおりに取れば、「口は実に便利なものだ」ということになります。
ただし、口の働きをほめる表現ではありません。人は、口先だけなら、実際にはできないことでも、できるように言えます。自分に都合が悪ければ言い訳をし、相手に気に入られたければ、心にもないことを言うこともできます。そのような言葉の使い方を、反語的に「便利なものだ」と皮肉っているのです。
「重宝」が「便利で都合がよい」という意味で使われた例は、室町時代の歌論書『正徹物語(しょうてつものがたり)』(1448〜1450年頃成立、正徹著)に、すでにあります。そこでは、和歌の時代を知るための説が役に立つという文脈で、「重宝也」と記されています。この時代までに、「重宝」は、大切な宝物という意味から、役立って便利なものという意味にも広がっていました。
江戸時代前期の仮名草子(かなぞうし)『浮世物語(うきよものがたり)』(1665年頃、浅井了意著)にも、人の能力が役に立つことを「何より重宝なれ」と表す例があります。「口は重宝」が文献に現れる少し前には、「重宝」を「便利だ」「都合がよい」という意味で用いる言い方が、広く通じるものとなっていたのです。
「口は重宝」という形の古い用例は、近松門左衛門の浄瑠璃(じょうるり)『三世相(さんぜそう)』(1686年・江戸時代前期、近松門左衛門著)に出てきます。この作品は、大坂で刊行された竹本義太夫の正本で、現在伝わる書名を『夕霧三世相』とする場合もあります。
『三世相』には、「なふ口はてうほう、いか程にいふとても逆ねだれを喰ふ男でなし」とあります。原文の「てうほう」は、現在の表記では「ちょうほう」です。この場面では、相手が口でいくら都合のよいことを言っても、そのまま信じるわけにはいかないという非難を込めて、「口は重宝」が使われています。
この古い用例は、現在の意味とほぼ同じです。口先では何とでも言えるというだけでなく、その言葉と事実との間に食い違いがあり、話し手に別の思惑があるのではないかと疑うニュアンスをもっています。そのため、単に「おしゃべりが上手だ」とほめる場合には用いません。
類義語の「口では大坂の城も建つ」は、口先だけなら、大坂城のような大きな建物さえ建てられると言える、というたとえです。どちらも、言うことは容易でも、実際に行うことは別だと示しますが、「口は重宝」は、言葉と事実が違うことや、相手が都合よく言いつくろっていることを責める意味が、より強く表れます。
このように、「口は重宝」は、「重宝」のもつ「便利」という意味を皮肉に用いたことわざです。約束や説明が立派でも、行動や事実が伴わなければ、言葉だけを信用することはできません。話のうまさに惑わされず、実際の行動や結果を確かめることの大切さを伝えています。
「口は重宝」の使い方




「口は重宝」の例文
- 彼は必ず手伝うと繰り返しながら一度も姿を見せず、友人から口は重宝だとあきれられた。
- 兄は部屋をすぐ片づけると言い続けたため、母に口は重宝では困るとたしなめられた。
- 責任者の説明と現場の実情が食い違い、住民から口は重宝との批判が上がった。
- 候補者には、口は重宝で終わらせず、掲げた公約を行動で示してほしい。
- 営業員は利益ばかりを強調したが、父は口は重宝と見抜いて契約を見送った。
- 口は重宝だからこそ、立派な言葉よりも、その後の行動を確かめる必要がある。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2006年。
・正徹『正徹物語』1448〜1450年頃。
・浅井了意『浮世物語』1665年頃。
・近松門左衛門『三世相』1686年。























