【ことわざ】
口は虎、舌は剣
【読み方】
くちはとら、したはつるぎ
【意味】
不用意な言葉は人を傷つけるだけでなく、話した本人の身を滅ぼすこともあるため、発言を慎むべきだという戒め。


【類義語】
・口の虎は身を破る(くちのとらはみをやぶる)
・舌の剣は命を絶つ(したのつるぎはいのちをたつ)
・口は禍の門(くちはわざわいのかど)
「口は虎、舌は剣」の語源・由来
「口」は、ここでは、口から発する言葉を指します。「虎」は人に襲いかかる猛獣であり、「剣」は人を切り傷つける武器です。口から出た言葉が虎のように自分の身を脅かし、舌から生まれた言葉が剣のように人を傷つけることを、二つの力強い比喩で表しています。
この表現につながる古い言葉は、藤原俊成の歌論書『古来風体抄(こらいふうていしょう)』(1197年・鎌倉時代初期、藤原俊成著)に出てきます。この書物には、行基(ぎょうき)が菅原寺の東南院で最期を迎えるとき、弟子たちに、言葉を慎むよう教えたという話があります。
その教えには、「口の虎は身を破る、舌の剣は命を断つ」に当たる言葉があります。うかつに口を開けば、その言葉が虎のように自分へ襲いかかり、舌から出した言葉が鋭い剣となって、命さえ危うくするという意味です。
続いて、口を鼻のようにすれば、後になって過ちを犯すことがないという教えも述べられています。鼻は息をする器官であって、言葉を発しません。そのため、言う必要のないことは口に出さず、沈黙を守ることの大切さを、「口を鼻のようにする」という印象深い言い方で示しています。
同じ教えは、『十訓抄(じっきんしょう)』(1252年ごろ成立・鎌倉時代中期)にも収められました。『十訓抄』は、若い人が身につけるべき十の教えを、説話や古い文章を例に挙げながら説いた書物です。この言葉は、人のことを軽々しく口にしてはならないと教える、第四の部分に置かれています。
これらの古い形では、「口の虎」が自分の身を破り、「舌の剣」が命を断つという、二つの文に近い形で語られています。虎と剣は、ともに外から人を害するものですが、この教えでは、自分が発した言葉そのものが危険な虎や剣へと変わり、やがて自分へ災いを返すものとして描かれています。
現在と同じ簡潔な形は、仮名草子(かなぞうし)『為愚痴物語(いぐちものがたり)』(1662年・江戸時代前期、曾我休自著)に用いられています。この作品は全八巻からなり、神道・儒教・仏教の教えをはじめ、昔の話や身近な見聞を通して、人の生き方を説いた書物です。
「口の虎は身を破る、舌の剣は命を断つ」という長い教えが、「口は虎、舌は剣」という、釣り合いのよい短い形へ整えられたとみられます。「口は虎」と「舌は剣」を並べることで、発言の危険さが一度に伝わり、覚えやすいことわざとして定着していきました。
このことわざは、相手を直接傷つける悪口だけを戒めるものではありません。秘密を漏らすこと、確かでないうわさを広めること、腹立ちまぎれに強い言葉を投げつけることなども、自分へ災いを招く原因になります。虎や剣にたとえられるほど、言葉の力は大きいので、口に出す前によく考えるべきだと教えています。
「口は虎、舌は剣」の使い方




「口は虎、舌は剣」の例文
- 軽い冗談で友人を深く傷つけ、彼は口は虎、舌は剣という戒めを痛感した。
- 家族の秘密を近所で話して騒ぎを招くとは、まさに口は虎、舌は剣である。
- 口は虎、舌は剣と心得て、腹が立っているときほど言葉を慎んだ。
- 会議で不用意に機密を漏らした社員は、口は虎、舌は剣を身をもって知った。
- 軽率な書き込みが多くの人を傷つけた出来事は、口は虎、舌は剣という教訓を示している。
- 口は虎、舌は剣にならないよう、相手の立場を考えてから意見を伝えた。
主な参考文献
・集英社辞典編集部編『会話で使えることわざ辞典』集英社、1989年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・藤原俊成『古来風体抄』1197年。
・『十訓抄』1252年ごろ成立。
・曾我休自『為愚痴物語』吉野屋権兵衛、1662年。























