【故事成語】
邯鄲の夢
【読み方】
かんたんのゆめ
【意味】
人の世の栄枯盛衰や富貴が、夢のようにはかないことのたとえ。


【英語】
・the transience of life.(人生のはかなさ)
【類義語】
・一炊の夢(いっすいのゆめ)
・黄粱の夢(こうりょうのゆめ)
・盧生の夢(ろせいのゆめ)
・邯鄲の枕(かんたんのまくら)
【対義語】
・千古不易(せんこふえき)
「邯鄲の夢」の故事
「邯鄲の夢」は、中国唐代の伝奇小説『枕中記(ちんちゅうき)』にもとづく故事成語です。『枕中記』は沈既済の作で、800年ごろ成立したとされており、邯鄲の青年盧生が夢の中で栄達の一生を経験する物語です。
物語の舞台は、唐の開元七年、邯鄲へ向かう道中の宿です。神仙の術を得た道士の呂翁が宿で休んでいると、粗末な服を着た若者の盧生がやって来ます。
盧生は、今の暮らしを嘆き、男として世に生まれたからには、功名を立て、将軍や宰相となり、家を栄えさせたいと語ります。宿の主人が黍(きび)を蒸している間、盧生は眠気を催しました。
そこで呂翁は、袋の中から不思議な枕を取り出し、盧生に貸します。盧生がその枕に頭をのせると、枕の穴がしだいに大きく明るくなり、夢の中の世界へ入っていきます。
夢の中で盧生は、名家の娘を妻にし、科挙に合格し、役人として出世していきます。地方官や節度使として功績をあげ、やがて中央の高官となり、名声と富貴に満ちた日々を送ります。
しかし、その一生は順調なことばかりではありませんでした。盧生は人にねたまれて左遷され、さらに謀反を疑われて捕らえられ、死を覚悟するほどの苦しみも味わいます。
その後、疑いは晴れ、盧生は再び重く用いられます。位は高まり、子や孫にも恵まれ、五十余年にわたって、栄えある一生を送ったのち、八十歳を越えて死を迎えます。
ところが、盧生が目を覚ますと、そこはもとの宿でした。呂翁はそばに座り、宿の主人が蒸していた黍はまだ煮えておらず、周りの様子も眠る前と少しも変わっていませんでした。
盧生は、自分の経験した富貴も栄達も苦しみも、ほんの短い眠りの中の夢であったことを悟ります。呂翁は「人生の楽しみも、このようなものだ」と語り、盧生は名誉と恥、困窮と栄達、得ることと失うこと、生と死の道理を知ったとして礼を述べます。
この故事から、「邯鄲の夢」は、人の世の栄枯盛衰のはかなさを表す言葉になりました。富貴を極めた五十余年の一生が、実は粟飯や黍飯が炊き上がるにも足りない短い時間の夢であった、というところに、この言葉の核心があります。
同じ故事から、「一炊の夢」「黄粱の夢」「盧生の夢」「邯鄲の枕」などの言い方も生まれました。「一炊の夢」は、飯が炊きあがるほどの短い間に見る夢という意味から、人生の栄華のはかなさを表します。
日本では、関連する表現が中世以降の文芸にも取り入れられました。『空華日用工夫略集』(1384年・南北朝時代)には「邯鄲枕事」とある用例があり、謡曲『邯鄲』(1464年ごろ・室町時代)にも「邯鄲の枕」が出てきます。
さらに、『枕中記』の話は、能『邯鄲』をはじめ、日本の文学や芸能にも影響を与えました。こうして「邯鄲の夢」は、ただの夢の話ではなく、栄華や成功に心を奪われすぎることへの戒めを含む故事成語として受け継がれています。
「邯鄲の夢」の使い方




「邯鄲の夢」の例文
- 一時は大金を得て豪華に暮らしたが、事業に失敗し、その栄華は邯鄲の夢となった。
- 若いころの名声にこだわり続けても、過ぎ去った栄光は邯鄲の夢にすぎない。
- 宝くじに当たった友人の派手な生活は長く続かず、まさに邯鄲の夢だった。
- 一夜にして有名になった彼の人気は、半年後には邯鄲の夢のように消えていた。
- 会社の急成長に酔っていたが、市場の変化で利益は失われ、邯鄲の夢を思い知らされた。
- 人の地位や財産は邯鄲の夢のようにはかないものだと、祖父は静かに語った。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・小学館『日本大百科全書(ニッポニカ)』小学館。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・沈既済『枕中記』唐代、800年ごろ成立。
・『空華日用工夫略集』1384年。
・『謡曲・邯鄲』1464年ごろ。
・HarperCollins Publishers, 『Collins COBUILD Advanced Learner’s Dictionary.』























