【ことわざ】
駆けつけ三杯
【読み方】
かけつけさんばい
【意味】
酒の席に遅れて来た人に、罰として続けざまに三杯の酒を飲ませること。また、その場に着いてすぐ三杯続けて飲むこと。


【類義語】
・遅れ三杯(おくれさんばい)
「駆けつけ三杯」の語源・由来
「駆けつけ三杯」の「駆けつけ」は、大急ぎで目的の場所へ着くことを表します。「駆けつける」には、走って、あるいは急いでその場へ行くという意味があります。
「三杯」の「杯」は、酒を入れて飲む器を指すとともに、器に入れた酒や飲み物を数える言葉でもあります。このことわざでは、酒を三杯続けて飲むことを表しています。
もとの情景は、すでに始まっている酒宴に遅れて来た人に、遅刻の罰として三杯の酒を続けて飲ませるというものです。そこから、酒席に加わったばかりの人に、すぐ何杯も酒を勧めることも表すようになりました。
日本の酒宴には、古くから、決まりを破った人や勝負に負けた人に酒を飲ませる「罰酒(ばっしゅ)」や「罰杯(ばっぱい)」という習慣がありました。「罰酒」は、宴会に遅刻した人や約束に反した人に酒を飲ませることも指し、『西宮記(せいきゅうき)』(969年ごろ成立、平安時代)にすでに用例があります。
遅刻者への罰杯には、「三遅(さんち)」と呼ばれる古い決まりもありました。杯が五回まわった後に来れば三杯、七回まわった後なら五杯、十回以上なら七杯を飲ませるという三段階の罰で、遅れた時間が長いほど杯数が増えました。
「駆けつけ三杯」の由来については、他人に勧められた杯を代わりに引き受けた人には、さらに三杯を飲ませるという俗習から生まれたとする説明があります。宴席で杯を受けることと三杯の酒が結びつき、遅れて来た人への言い方にも広がったと考えられています。
一方、古い酒宴の礼法である「式三献(しきさんこん)」とのつながりを説く考えもあります。式三献は、料理や酒を勧め、乾杯することを三度繰り返す儀礼的な作法で、室町時代の『上井覚兼日記(うわいかくけんにっき)』には、1575年の用例があります。
三献は、中世以後の正式な酒宴で重んじられた礼法でした。遅れて来た人にも三献に当たる酒を飲ませて一座に加えたことが、のちに遅刻への罰として理解されるようになったとする説があります。
また、平安時代の公家の酒宴で、即興の詩歌を作れなかった人に酒を飲ませた習慣や、杯が何巡した後に到着したかによって罰杯の数を変えた決まりに由来するという説もあります。このように、「三杯」の由来にはいくつかの説明があり、一つだけに定めることはできません。
現在の形に近い古い用例としては、歌舞伎『敵討噂古市(かたきうちうわさのふるいち)』(1857年・江戸時代後期、河竹黙阿弥作)に出てきます。この作品は、安政4年5月に江戸の市村座で初演されました。
第二幕には、「もし、一献ぢゃあ数が悪い、もういっぱいおやんなさい」「駈附三ばいといふことがある」とあります。「駈附三ばい」という古い表記で、さらに酒を勧めるための決まり文句として使われています。
同じく江戸時代末期の滑稽本(こっけいぼん)『妙竹林話七偏人(みょうちくりんばなししちへんじん)』(1857〜1863年、梅亭金鵞作)にも、この言い方が出てきます。江戸の遊び人たちのいたずらや宴席を描いた作品で使われていることから、当時の町人の酒席で通じる言葉になっていたことが分かります。
昭和期には、梅崎春生の『風宴』(1939年)にも、「かけつけ三杯だから」と酒を勧める用例があります。江戸時代の酒席から生まれた言い方が、近代以後も、到着したばかりの人に酒を勧める表現として受け継がれました。
このように、「駆けつけ三杯」は、古くからの罰酒や酒宴の作法を背景に、遅れて来た人に続けて酒を飲ませる習慣を表すようになったことわざです。現在では、酒を無理に勧めるための作法ではなく、昔の酒席の習慣を伝える言葉として用いられます。
「駆けつけ三杯」の使い方




「駆けつけ三杯」の例文
- 昔の酒宴では、遅れて到着した客に駆けつけ三杯を勧めることがあった。
- 宴会に遅れて来た彼は、仲間から駆けつけ三杯だとからかわれた。
- 時代小説の宴席で、主人公が駆けつけ三杯を求められる場面が描かれている。
- 駆けつけ三杯は、遅刻した人に酒を続けて飲ませた昔の習慣を表す。
- 幹事は駆けつけ三杯という古い言葉を口にしたが、酒を無理に勧めることはしなかった。
- 酒文化の展示では、駆けつけ三杯をはじめとする宴席の習慣が紹介されていた。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・森睦彦『数のつく日本語辞典』東京堂出版、1999年。
・荻生待也編著『日本の酒文化総合辞典』柏書房、2005年。
・河竹黙阿弥『敵討噂古市』1857年。
・梅亭金鵞『妙竹林話七偏人』1857〜1863年。
・梅崎春生『風宴』1939年。























