【故事成語】
君子は豹変す
【読み方】
くんしはひょうへんす
【意味】
徳のある立派な人物は、自分の過ちに気づくと、きっぱりと改めてよい方向へ進むものだということ。転じて、考えや態度を急に変えること。


【英語】
・A wise man changes his mind, a fool never.(賢い人は考えを改めるが、愚かな人は決して改めない)
【類義語】
・過ちては改むるに憚ること勿れ(あやまちてはあらたむるにはばかることなかれ)
「君子は豹変す」の故事
「君子は豹変す」は、古代中国の古典『易経(えききょう)』の革卦(かくか)に由来します。『易経』は、陰と陽を組み合わせた六十四卦(ろくじゅうしけ)によって、自然や人間社会の移り変わりを示した書物で、『周易(しゅうえき)』とも呼ばれます。革卦の「革」は、古いものを改め、新しい状態へ移ることを表します。
一つの卦は、爻(こう)と呼ばれる六本の線から成り、それぞれの段階に言葉が付されています。「君子は豹変す」が現れるのは、革卦の最上段に当たる上六(じょうりく)です。そこには、「上六、君子豹変、小人革面。征凶、居貞吉」とあります。
この一節は、君子は豹の姿が変わるように自らを改め、徳の乏しい小人は顔つきだけを改める、という意味です。「小人革面(しょうじんかくめん)」は、心の底から変わるのではなく、外見や態度だけを改めて従うことを表します。ここでは、君子の内面からの変化と、小人の表面的な変化とが対照的に示されています。
「豹変」は、豹の毛が季節によって抜け替わり、まだら模様が鮮やかになる姿に重ねた表現です。豹の模様が目に見えて美しく整うように、立派な人物の変化も、行動にはっきりと表れるというたとえです。もとの「豹変」には、現在のような悪い意味はありませんでした。
革卦の一つ前の段階には、「大人虎変」という言葉もあります。虎や豹の毛並みが鮮やかに改まる姿を用いることで、変革を行う者は、中途半端に態度を取り繕うのではなく、誰の目にも分かるほど明確に自らを改めるべきだと表しています。
ただし、革卦は、むやみに考えを変え続けることを勧めているわけではありません。「征けば凶、貞しきに居れば吉」という趣旨の言葉が続き、必要な変革を成し遂げたあとは、さらに動き回ることなく、正しい状態を守ることが大切だと示しています。したがって、ここでいう変化とは、利益や都合に合わせた気まぐれな変節ではなく、時機と道理にかなった改めを指します。
日本では、『童子問(どうじもん)』(1707年・江戸時代前期刊、伊藤仁斎著)に「君子豹変、小人革面」が用いられています。そこでは、聖人が今の世に生きるなら、昔の制度に固執せず、その時代の習俗や法に応じるはずだという文脈で使われており、時代に合わせて正しく改めるという本来の意味が保たれています。
昭和21年の太宰治『パンドラの匣』にも、「君子は豹変する」という形が出てきます。一方、現代では意味が広がり、立場や都合に合わせて態度を急変させる人を皮肉る場合にも使われます。そのため、現在の文章では、本来の「潔く過ちを改める」という意味なのか、「節操なく変わり身が早い」という意味なのかを、前後の文脈から読み取る必要があります。
「君子は豹変す」の使い方




「君子は豹変す」の例文
- 委員長は計画の欠点を認め、君子は豹変すという言葉のとおり、すぐに新しい案を出した。
- 父は自分の思い違いに気づくと、君子は豹変すとばかりに、家族へ謝って考えを改めた。
- 友人は君子は豹変すの教えにならい、誤ったうわさを広めたことを認めて皆に訂正した。
- 社長は君子は豹変すというように、失敗した経営方針を速やかに見直した。
- 指導者には、君子は豹変すの言葉どおり、誤りを認めて政策を改める勇気が求められる。
- 昨日までの主張を突然覆した議員は、君子は豹変すとはこのことだと皮肉られた。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・高田真治・後藤基巳訳『易経 下』岩波書店、1969年。
・伊藤仁斎著、清水茂校注『童子問』岩波書店、1970年。
・Elizabeth Knowles編『Little Oxford Dictionary of Proverbs, Second Edition』Oxford University Press,2016.
・『周易』























