【故事成語】
脂に画き氷に鏤む
【読み方】
あぶらにえがきこおりにちりばむ
【意味】
中身や土台が整っていないのに外側だけを飾っても無駄なこと。転じて、苦労しても効果がなく、努力が報われないこと。


【英語】
・labor in vain(むだに骨を折る)
【類義語】
・骨折り損のくたびれ儲け(ほねおりぞんのくたびれもうけ)
・水に絵を描く(みずにえをかく)
「脂に画き氷に鏤む」の故事
「脂に画き氷に鏤む」は、中国前漢の桓寛(かんかん)がまとめた『塩鉄論(えんてつろん)』の「殊路」にもとづく表現です。『塩鉄論』は、前漢の朝廷で行われた塩・鉄・酒の専売などをめぐる議論を、のちに桓寛がまとめた書物で、政治や経済だけでなく、人の学び方や物事の本質についての考えも述べられています。
もとの一節には、「內に其の質無くして外に其の文を學ぶは、賢師良友有りと雖も、脂に畫き冰に鏤むが若し」という趣旨の言葉が出てきます。これは、内側に本当の力や中身がないまま、外側の形だけをまねても、どれほどよい先生や友人に恵まれても、脂に絵を描き、氷に彫刻するようなものだ、という意味です。
「脂」は、やわらかく形が保ちにくいあぶらを指します。その上に絵を描いても、線はしっかり残りません。「氷」は、彫っても温まれば溶けて消えます。この二つを並べることで、せっかく手をかけても、相手そのものが成果を保てないなら、努力はあとに残らない、というたとえになっています。
この表現の大切な点は、単に「努力はむだだ」と言っているのではありません。『塩鉄論』の文脈では、内面の実質を備えずに、外側の文飾だけを学ぶことを戒めています。つまり、学問でも仕事でも、見た目や手順だけをまねるのではなく、何のために行うのか、土台となる力があるのかを整える必要がある、という教えにつながっています。
日本語では、漢字四字の「画脂鏤氷」とともに、「脂に画き氷に鏤む」という訓読の形でも用いられます。「鏤む」は、彫りつける、刻みこむという意味をもつ難しい言葉です。やがてこの表現は、内実のない飾りを戒める意味だけでなく、努力しても効果がなく徒労に終わることを表す言い方として広く理解されるようになりました。
したがって「脂に画き氷に鏤む」は、苦労そのものを否定する故事成語ではありません。成果を残すには、努力を注ぐ場所や方法が大切であり、土台のないところに形だけを重ねても、あとには残らないということを、脂と氷のはかない性質によって分かりやすく示す言葉です。
「脂に画き氷に鏤む」の使い方




「脂に画き氷に鏤む」の例文
- 資料の内容を直さず表紙だけ豪華にしても、脂に画き氷に鏤むにすぎない。
- 基礎練習をしないまま難しい曲だけを暗記しようとして、脂に画き氷に鏤む結果となった。
- 店の看板を新しくしても、料理の味を改めなければ脂に画き氷に鏤むだ。
- 相手の希望を聞かずに計画を細かく作っても、脂に画き氷に鏤むことになりかねない。
- 会社の仕組みを変えずに宣伝だけ増やすのは、脂に画き氷に鏤むようなものだ。
- 本文の誤りを残したまま発表資料の色だけ整えても、脂に画き氷に鏤むで終わる。
主な参考文献
・白川静著『字通 普及版』平凡社、2014年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・佐藤武敏訳『塩鉄論 漢代の経済論争』平凡社、1970年。
・桓寛『鹽鐵論』。























