【ことわざ】
粟一粒は汗一粒
【読み方】
あわひとつぶはあせひとつぶ
【意味】
粟一粒を育てるにも農民の汗が流れているという、農作の苦労をいうたとえ。


【類義語】
・粒粒辛苦(りゅうりゅうしんく)
「粟一粒は汗一粒」の語源・由来
「粟一粒は汗一粒」は、粟の小さな粒と、農作業で流れる汗の粒を対応させた言い方です。粟は、秋に小粒の実をつける穀物で、古くから栽培され、粟飯や粟餅などにして食べられてきました。小さな一粒を取り上げることで、作物ができるまでの労苦を、手にのるほど具体的なものとして思い浮かべさせる表現になっています。
この考え方に近い古い漢詩に、唐代の李紳「憫農二首」があります。その一首には、「春種一粒粟,秋收萬顆子」とあり、春に一粒の粟をまき、秋に多くの実を収める詩句が出てきます。また、もう一首には、真昼に農夫が田畑を耕し、汗が土に落ちる場面のあと、「粒粒皆辛苦」とあり、食卓の一粒一粒が農夫の苦労によって生まれたものだと表しています。
ただし、「粟一粒は汗一粒」という日本語の形は、特定の人物の逸話を短くまとめたものではなく、農作と食物を結びつけた生活の教えとして伝わった表現です。粟の粒と汗の粒を同じ「一粒」で受けることで、言葉の形も覚えやすくなり、わずかな食物にも多くの働きが込められていることを印象づけています。
明治43年に刊行された『諺語大辭典』(1910年・明治時代、藤井乙男編)には、「粟一粒ハ汗一粒」という形が掲げられ、「農夫の勞苦多きをいふ」と記されています。この段階で、現在とほぼ同じ形のことわざとして、農夫の苦労を表す意味で用いられていたことが分かります。
後の用法でも、このことわざは、粟一粒を育てるために農民の汗が流れているという意味で受け継がれています。単に「大変だ」と言うだけでなく、食物が自然に目の前へ来るのではなく、種をまき、育て、収穫する人の手間を通って届くものだと気づかせるところに、このことわざの力があります。
そのため、現在では、農家の労働をねぎらう場面だけでなく、食べ物を残さず大切にしようとする場面にも合う表現です。「一粒」という小さな単位から始まり、食物を作る人への感謝へ広がっていくところに、「粟一粒は汗一粒」の今に通じる意味があります。
「粟一粒は汗一粒」の使い方




「粟一粒は汗一粒」の例文
- 祖母は食事のたびに、粟一粒は汗一粒だから残さず食べなさいと言った。
- 山あいの畑で雑穀を育てる苦労を知り、粟一粒は汗一粒という言葉の重みを感じた。
- 給食のごはんを粗末にしないためにも、粟一粒は汗一粒の心を忘れたくない。
- 農家の人が暑い中で草取りをする姿を見て、粟一粒は汗一粒とはこのことだと思った。
- 小さな弁当の一口にも多くの手間がかかっていると考えると、粟一粒は汗一粒ということわざが身にしみる。
- 会社の食堂では、食品を無駄にしない合い言葉として粟一粒は汗一粒を掲げている。
主な参考文献
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編集『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・集英社辞典編集部編『会話で使えることわざ辞典』集英社、1989年。
・藤井乙男編『諺語大辭典』有朋堂書店、1910年。
・李紳「憫農二首」『全唐詩』巻483。























