【ことわざ】
慌てる蟹は穴へ入れぬ
【読み方】
あわてるかにはあなへはいれぬ
【意味】
慌てると、ふだんならできることも失敗してしまうというたとえ。


【英語】
・More haste, less speed(急げば急ぐほど、かえって遅くなる)
・Haste makes waste(急ぎすぎると失敗して無駄が出る)
【類義語】
・急いては事を仕損じる(せいてはことをしそんじる)
・急がば回れ(いそがばまわれ)
【対義語】
・善は急げ(ぜんはいそげ)
「慌てる蟹は穴へ入れぬ」の語源・由来
「慌てる蟹は穴へ入れぬ」は、蟹が穴へ逃げ込もうとする姿をもとにしたことわざです。干潟の蟹には、それぞれ自分の巣穴を持ち、鳥などが近づくといっせいに巣穴へ逃げ込むものがいます。逃げるための穴がすぐそばにあっても、慌てて動けばうまく入れない、という身近な観察が、今の教訓的な意味につながっています。
古い周辺表現としては、「蟹の穴入り」があります。これは、蟹が物かげに逃げ込むように、あわてて逃げ込むさま、またはあわてふためくさまを表します。『諺苑(げんえん)』(1797年・江戸時代後期、太田全斎著)に用例があり、江戸時代には、蟹と穴を結びつけて「あわてる様子」を表す言い方がすでに使われていました。
『諺苑』は、俗語や俗諺をいろは順に集め、語釈や出典を示した江戸時代の国語辞書です。この時期の言い回しでは、蟹が穴へ入るという具体的な動作が、ただの生き物の説明ではなく、人間のあわただしい行動を映す比喩として受け取られていたことが分かります。
現在の形では、「慌てる蟹は穴へ這入れぬ」と掲げる場合があります。「這入る」は「はいる」と読み、「入る」とも書くため、「穴へ這入れぬ」と「穴へ入れぬ」は、表記の違いを含みながら同じ内容を表す言い方です。蟹が本来なら入り慣れているはずの穴に入れない、というところに、このことわざのおもしろさと分かりやすさがあります。
このことわざが伝えるのは、急ぐことそのものをすべて否定する考えではありません。問題は、慌てて落ち着きを失い、手順を乱したり、目の前のことを見誤ったりすることにあります。だからこそ、試験、発表、作業、避難、約束の準備など、急ぐ場面ほど冷静さが大切だという戒めとして使われます。
「慌てる蟹は穴へ入れぬ」の使い方




「慌てる蟹は穴へ入れぬ」の例文
- 集合時間に遅れそうになって走り出したが、慌てる蟹は穴へ入れぬで、財布を家に忘れてしまった。
- 試合の残り時間が少ないからこそ、慌てる蟹は穴へ入れぬを思い出して、確実にパスをつなぐべきだ。
- 書類を急いで出した結果、名前を書き忘れたのは、まさに慌てる蟹は穴へ入れぬだ。
- 料理の手順を飛ばして失敗した母は、慌てる蟹は穴へ入れぬだと笑いながら作り直した。
- 災害時には、慌てる蟹は穴へ入れぬにならないよう、避難経路を日ごろから確かめておく必要がある。
- 大事な商談の前に資料を入れ違えた彼は、慌てる蟹は穴へ入れぬを身をもって知った。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・太田全斎『諺苑』1797年。
・公益財団法人日本漢字能力検定協会『漢字ペディア』。
・Cambridge University Press & Assessment, 『Cambridge Dictionary』.
・Merriam-Webster, 『Merriam-Webster.com Dictionary』.























