【故事成語】
盈満の咎
【読み方】
えいまんのとが
【意味】
物事が十分に満ち足りているときには、かえって災いが生じやすいということ。


【類義語】
・月満つれば虧く(つきみつればかく)
・盛者必衰(じょうしゃひっすい)
「盈満の咎」の故事
「盈満の咎」は、『後漢書(ごかんじょ)』(南朝宋、5世紀、范曄撰)の「方術伝」に収められた折像の逸話にもとづきます。『後漢書』は、後漢の歴史を、皇帝や人物の事績を中心に記した紀伝体の史書です。
「盈満」の「盈」は、いっぱいに満ちることを表します。この故事成語では、財産や権勢などが不足なく満ち、これ以上ないほど盛んになった状態を指します。
折像は広漢郡の人で、幼いころから慈しみ深く、昆虫を殺さず、草木の若芽も折らなかったと記されています。また、易の学問に通じ、黄帝と老子を尊ぶ黄老(こうろう)の思想を好みました。
折像の父は、巨額の財産と、八百人もの家僮(かどう:家の召使い)を抱えていました。父が亡くなると、折像は受け継いだ金銭や絹などの財産を、親族や親しい人々へ広く分け与え始めました。
この行いの背景には、「多く蓄えれば、それだけ失うものも大きくなる」という「多蔵必厚亡」の教えがありました。これは『老子(ろうし)』第四十四章に出てくる言葉で、そのあとには、足ることを知り、適切なところで止まれば、危険を免れて長く保てると続きます。
周囲の人は、折像には三人の息子と二人の娘がおり、子孫も大勢いるのだから、財産を減らすのではなく、さらに増やすべきだと忠告しました。なぜ、自ら家産を使い果たすようなことをするのかと問いただしたのです。
これに対し、折像は、「吾が門戸、財を殖やすこと日久し。盈満の咎は、道家の忌む所なり」と答えました。自分の家は長い間にわたって富を増やしてきたが、満ちすぎたことによって招く災いを、道家は戒めているという意味です。
折像はさらに、仁愛の心がないまま富を抱えることは不幸であると述べました。そして、ひびの入った壁が高くそびえていれば、崩れるときも速いという比喩を用い、弱点を抱えた家が富だけを大きくすれば、災いも急に訪れると説きました。
この話は、財産を持つことそのものを悪いとするものではありません。富や勢力が盛りに達したとき、節度を失ってさらに求め続ければ、その豊かさが、かえって争い・おごり・破滅のもとになり得ると戒めています。
折像の考えを聞いた知恵ある人々は、みな感服しました。折像は八十四歳で亡くなり、そのとき家には余分な財産が残っておらず、息子たちも、折像が心配していたとおり衰えていったと、『後漢書』は結んでいます。
日本では、『日本文徳天皇実録(にほんもんとくてんのうじつろく)』(879年成立、藤原基経・都良香ほか編)の天安元年、857年三月の記事に、「盈満之災」という形が出てきます。「咎」を「災い」と言い換えた、同じ考えを表す古い用例です。
その後、「盈満の咎」のほか、「盈満の咎め」「盈満の災い」とも言うようになりました。現在では、富・権力・人気・事業などが絶頂にあるときほど油断せず、行き過ぎを慎むべきだという戒めとして用いられます。
「盈満の咎」の使い方




「盈満の咎」の例文
- 会社が急成長したときこそ、経営者は盈満の咎を恐れて無理な事業拡大を慎んだ。
- 連勝に浮かれた選手たちは、盈満の咎を招かぬよう、基本練習をいっそう大切にした。
- 人気の絶頂にあった店は支店を増やしすぎ、盈満の咎によって経営を苦しくした。
- 家の財産が増えるほど生活が派手になり、やがて盈満の咎が一家を襲った。
- 祭りの大成功におごらず安全対策を見直したのは、盈満の咎を心得た判断だった。
- 権力を独り占めした王は忠告を聞かなくなり、ついに盈満の咎を受けて国を失った。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・范曄撰、李賢注、吉川忠夫訓注『後漢書 第9冊 列伝7(巻66〜74)』岩波書店、2005年。
・范曄『後漢書』南朝宋、5世紀成立。
・『老子』。
・藤原基経・都良香ほか編『日本文徳天皇実録』879年成立。























