【故事成語】
絵に描いた餅
【読み方】
えにかいたもち
【意味】
きれいだったり、もっともらしかったりしても、実際には役に立たないもの、または実現しない計画のたとえ。実物・本物でなければ値打ちがないことにもいう。


【英語】
・pie in the sky(実現しそうにない計画や希望)
【類義語】
・画餅(がべい)
・机上の空論(きじょうのくうろん)
・砂上の楼閣(さじょうのろうかく)
・取らぬ狸の皮算用(とらぬたぬきのかわざんよう)
【対義語】
・有言実行(ゆうげんじっこう)
「絵に描いた餅」の故事
「絵に描いた餅」は、漢語の「画餅(がべい)」と深く結びついた表現です。「画餅」は、絵に描いた餅、つまり目には見えても食べることができず、実際の役に立たないものを表します。
もとになった故事は、中国の歴史書『三国志(さんごくし)』魏書・盧毓(ろいく)伝に出てきます。『三国志』は、西晋の陳寿が著した歴史書で、魏・蜀・呉の三国の歴史を、魏書三十巻、蜀書十五巻、呉書二十巻の全六十五巻で記しています。
盧毓は、三国時代の魏の政治家です。若いころから学問と行いで知られ、のちに人材を選ぶ役目にも携わりました。
盧毓伝では、諸葛誕や鄧颺らが名声を得ていたものの、評判ばかりが先に立つ風潮を、魏の皇帝が好ましく思わなかった場面が出てきます。そこで、人材を選ぶときは、名声だけで判断してはならないという考えが示されます。
そのときの言葉が、「選舉莫取有名,名如画地作饼,不可啖也」です。これは、「人を選び挙げるとき、名のあることだけを取ってはならない。名声は地面に描いて作った餅のようなもので、食べることはできない」という意味です。
ここでいう「名」は、評判や名声のことです。どれほど世間でよく知られていても、その人に本当の能力や実績が伴わなければ、地面に描いた餅と同じで、実際には役に立たないというたとえになっています。
ただし、盧毓は名声をまったく否定したわけではありません。盧毓は、名声だけで特別にすぐれた人物を見抜くことは難しいが、ふつうに善を慕い、教えを守る人を知る手がかりにはなる、と答えています。
このやり取りから、「画餅」は、見かけや評判はあっても実際の役に立たないものを表す言葉として理解されるようになりました。のちに、計画したことが失敗し、無駄になることを「画餅に帰す」ともいうようになります。
日本語では、この「画餅」の考えを、より分かりやすく言い換えた形として「絵に描いた餅」が広く用いられました。どんなに上手に描いた餅でも食べられないという身近なたとえによって、見た目だけで実用が伴わないことを表すようになったのです。
日本での古い用例としては、『為愚痴物語(いぐちものがたり)』(1662年・江戸時代前期、仮名草子)に、「ゑにかける餠、飢をいやさず」という形が出てきます。これは、絵に描いた餅では空腹を満たせないという意味で、実物でなければ役に立たないという考えをよく示しています。
この古い用例では、木仏や絵像のようなものをめぐる文脈で、「形だけのものは実際の助けにならない」という意味が表れています。現在の「計画だけは立派だが実行できない」「見た目はよいが実用がない」という意味にも、その考え方が受けつがれています。
また、現代では「絵に描いたよう」と混同して、「絵に描いたような餅」とする言い方は避けるべき形とされます。「絵に描いた餅」は、見事な絵のように美しいという意味ではなく、実際には役に立たないもの、実現しない計画を表す言葉です。
この故事成語の大切な点は、「見えること」と「役に立つこと」は同じではない、というところにあります。見た目や評判、計画の立派さだけでなく、実際に行えるか、本当に役に立つかを見なければならないという教えにつながっています。
「絵に描いた餅」の使い方




「絵に描いた餅」の例文
- 予算も人手もないまま立てた大きな計画は、絵に描いた餅に終わった。
- どれほど立派な案でも、実行する方法がなければ絵に描いた餅だ。
- 新しい図書室を作る話は魅力的だったが、場所が確保できず絵に描いた餅になった。
- 契約が取れなければ、その売り上げ予想は絵に描いた餅にすぎない。
- 家族旅行の予定は楽しそうだったが、日程を決めないままでは絵に描いた餅だ。
- 地域の清掃活動も、参加者を集めなければ絵に描いた餅で終わってしまう。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・陳寿『三国志』西晋、3世紀。
・Merriam-Webster『Merriam-Webster.com Dictionary』。























