目次
「犬も歩けば棒に当たる」の意味・語源・由来
- ことわざ:犬も歩けば棒に当たる
- 読み方:いぬもあるけばぼうにあたる
- 意味:①積極的に行動する者はときに災難に遭う。②いろいろやっているうちに、思いがけない幸運に出合うこともある。
「犬も歩けば棒に当たる」の二つの意味(北村孝一コラム)
「犬も歩けば棒に当たる」は、“江戸いろはかるた”(「いろはがるた」とも発音します)の「い」の札としてよく知られています。このかるたのことを「犬棒かるた」と呼ぶことは、みなさんもご存じですね。このことわざは、いろはの「い」だから印象が強いだけでなく、二つの相反する意味があることも大きな特徴です。
たとえば、『広辞苑』では「犬」の項で次のように説明されています。
犬も歩けば棒に当る
物事を行う者は、時に禍いにあう。また、やってみると思わぬ幸いにあうことのたとえ。
(『広辞苑』7版)
失礼ながら、「物事を行う者」というのは、あまりぴんときませんね。
私なら「積極的に行動する者」とでもしたいところです(見方によっては、出しゃばって物事を行う者とみなされることもあります)。そういう者は、とかく禍(わざわい)にあうということになります。
「やってみると」というのも、やや舌たらずで、ことわざの「犬も歩けば」という表現にそって比喩を考えると、「あちこち出歩いていると」あるいは「いろいろやっているうちに」ということでしょう。こちらは、思いがけない幸運にあうことになります。
同じ「犬も歩けば棒に当たる」の意味が、一方では「禍」にあうことになり(災難説)、もう一方ではまったく逆に、幸運にあうことになる(幸運説)というのは、不思議ですね。どうして、そんなことがおこるのでしょうか。
現代人がこのことわざの意味をよく知らずに、「犬も歩けば棒に当たる」という文を見ると(聞くと)、幸運にであうとは思えないでしょう。かるたの絵を見ても、たいてい犬が棒を投げつけられた場面がえがかれていて、痛そうに片足をあげていますから、禍と思うのがふつうの感覚です。
しかし、このことわざは、江戸時代中期(18世紀初期)から用例がのこっていて、当時から幸運にあうという意味でも使われていたことがわかっています。この受け取りかたのちがいは、どこから生じるのでしょうか。
ここで、いちばん注目したいのは「犬」です。犬は江戸時代もいまも変わらないと思いがちですが、犬の比喩的な(つまり、たとえとしての)意味やイメージは、時代によって大きく変わっています。
徳川家康は、新参の(侍にとりたてられたばかりの)身分の低い者に「犬々三年人一代、人々(ひとひと)三年犬一代」という古いことわざをよく引いて、教えていたといいます(本居宣長『玉勝間』)。
最初の三年は、人に犬といわれても堅実(けんじつ)に倹約(けんやく)して暮らし、仕事にはげみ借金をしなければ、その後は人として恥ずかしくない生活が一生できる。
しかし、酒や宴会をこのんで人にふるまい、派手な生活をしていると、欲のない気前のよい人ともてはやされるが、三年もすると金もなく馬ももてず、人に借りたものも返せず、武士の務めがはたせなくなって、世間からばかにされ、一生笑い者になってしまう、ということです。
この家康のエピソードから、当時の「犬」は、まずしく身分の低い人々やその生活ぶりのたとえとして使われていたことがわかります。「犬」は、生命力が強く、安産とされ、活動的で、主人や家を守るなど、プラスのイメージもありますが、身分制度がきびしい時代には、身分の低い者をさしていたことは間違いありません。
これは、「犬も歩けば…」ということわざの二つの意味(二重の意味)を解き明かすうえで、重要なカギになると私は考えています。
少しむずかしい話になりましたが、大まかにいうと、「犬も」といったときに、「犬」を見下して、自分は「犬」ではないと思っている人は、災難説にかたむきます。むやみに動いて、よけいなことをするから、禍にあうと考えるのです。
もちろん、人間は犬ではありませんが、ある意味で、自分は「犬」だ、身分の低い者、貧しい者だと思っている人(特権のない庶民といってよいでしょう)は、どちらかというと幸運説に共感します。
しがない庶民だって、ツキがまわってくることもある、と暗にいいたいのです。
「犬も歩けば棒に当たる」の二つの意味については、多くのことわざ辞典や本がふれていますが、いま述べた身分の視点をわすれている(避けている?)ために、なぜ二つの意味・用法が並行して使われるのか、解明されていないのではないでしょうか。
©2024 Yoshikatsu KITAMURA
「犬も歩けば棒に当たる」の使い方
「犬も歩けば棒に当たる」の例文
幸運説
- ふらっと立ち寄ったカフェで、憧れの作家に偶然会えた。犬も歩けば棒に当たるとはこのことだ!
- 新しい趣味を始めたら、そこで素敵な友人ができた。犬も歩けば棒に当たるって、こういう幸運もあるんだね。
- 何気なく応募した懸賞に当たって、旅行券をゲットした!犬も歩けば棒に当たるとはまさにこのこと!
- 道に迷ってしまったけど、偶然にも評判の隠れ家レストランを見つけて大満足。犬も歩けば棒に当たるって本当だな。
- 友人の付き添いで行ったイベントで、思いがけず有名な俳優と写真を撮ることができた。犬も歩けば棒に当たるって、こういうことか!
災難説
- 仕事で新しいことに挑戦したら、大きなミスをして上司に叱られてしまった。まさに犬も歩けば棒に当たるだ。
- 久しぶりに外を散歩したら、突然の雨に降られてびしょ濡れになった。犬も歩けば棒に当たるとはこのことだ。
- SNSで発言したら予想外に炎上してしまった。余計なことを言うものじゃないな…犬も歩けば棒に当たる。
- 道を歩いていたら、知らない人にぶつかられてコーヒーをこぼしてしまった。何もしなければよかった、犬も歩けば棒に当たるか…。
- たまたま立ち寄ったお店で高価な商品を壊してしまい、弁償する羽目になった。ついてないな、犬も歩けば棒に当たるとはこういうことか。
「犬も歩けば棒に当たる」の類義語・似たことわざ
幸運説
- 思い立ったが吉日
- 怪我の功名
災難説
- 藪をつついて蛇を出す
- 触らぬ神に祟りなし
「犬も歩けば棒に当たる」の対義語
- 虎穴に入らずんば虎子を得ず
- 無行動
- 消極性
使用上の注意点
失敗やトラブルの場面で使うと皮肉に聞こえることがある
→ 特に人の不運に対して使うと失礼になることがある。
(例:✕「うっかり転んでケガをしたの?まあ、犬も歩けば棒に当たるね。」→ 皮肉っぽく聞こえる)
「犬も歩けば棒に当たる」の英語表現
The dog that walks finds the bone.
- 直訳:歩く犬は骨を見つける。
- 意味:行動すれば何かを得られることを意味することわざ。努力や挑戦をすることで、思わぬ成果が得られるかもしれないという教訓。
- 例文:If you keep trying new things, you’ll eventually find success. The dog that walks finds the bone. (新しいことに挑戦し続ければ、いつか成功するよ。歩く犬は骨を見つけるものさ。)
Nothing will change if you do nothing.
- 直訳:何もしなければ、何も変わらない。
- 意味:変化を望むなら行動しなければならないという意味のフレーズ。挑戦しなければ、現状は何も変わらないことを示している。
- 例文:If you want to improve your life, take action! Nothing will change if you do nothing. (人生を良くしたいなら、行動を起こさなきゃ!何もしなければ、何も変わらないよ。)
Nothing ventured, nothing gained.
- 直訳:冒険しなければ、得るものもない。
- 意味:リスクを取らなければ成功や報酬は得られない、という意味のことわざ。挑戦を恐れずに行動することの大切さを伝える。
- 例文:I was scared to start my own business, but I remembered: nothing ventured, nothing gained. (自分でビジネスを始めるのは怖かったけど、「挑戦しなければ、得るものもない」ってことを思い出したよ。)
「犬も歩けば棒に当たる」のクイズ問題!理解度チェック
Q1
次の画像に表示される4択問題に答えよ。
Q2
「犬も歩けば棒に当たる」が広まったきっかけは?
- 外国のことわざを翻訳したから
- 明治時代に作られた童話のタイトルだから
- 江戸時代の「いろはかるた」に採用されたから
- 昔の犬は棒を拾うのが仕事だったから
Q3
「犬も歩けば棒に当たる」をポジティブな意味で使うときの例は?
- 不注意で転んで、大けがをしてしまった
- 犬を散歩させていたら、棒を持った人が怖がられた
- ずっと座っていたら、腰が痛くなった
- たくさん応募したら、思いがけずコンテストで優勝した