【ことわざ】
鰯の頭をせんより鯛の尾に付け
【読み方】
いわしのかしらをせんよりたいのおにつけ
【意味】
小さくて弱いもののかしらになるよりも、大きくて強いもののあとについていくほうが、安全で確実であるということ。


【英語】
・Be a tail to lions, rather than a head to foxes(狐の頭になるより、ライオンの尾になれ)
【類義語】
・寄らば大樹の陰(よらばたいじゅのかげ)
【対義語】
・鯛の尾より鰯の頭(たいのおよりいわしのあたま)
・鶏口となるも牛後となるなかれ(けいこうとなるもぎゅうごとなるなかれ)
「鰯の頭をせんより鯛の尾に付け」の語源・由来
「鰯の頭をせんより鯛の尾に付け」は、魚の大小や価値の差を、人の立場や所属先にたとえたことわざです。鰯は日本人にとって古くからなじみ深い大衆魚で、鯛に比べて卑しい魚と受け取られる面もありました。
一方、鯛は姿が美しく、「めでたい」に通じることから、祝い膳に尾頭つきで用いられることの多い魚です。このため、ことわざの中でも、鯛は立派で価値の高いもの、鰯は小さく弱いものを表す材料として使われやすくなりました。
このことわざの「鰯の頭」は、小さく弱いものの先頭やかしらを表します。「せん」は「しよう」「なろう」という意味に通じ、「鰯の頭をせん」は、鰯の頭になろうとすること、つまり小さなものの長になろうとすることを表します。
「鯛の尾に付け」は、立派で強いものの末端につくことを表します。尾は先頭ではありませんが、鯛という大きく価値のあるものに属しているため、小さなものの頭でいるより安全で確実だ、という考えにつながります。
この言い方と対になる有名なことわざに、「鯛の尾より鰯の頭」があります。こちらは、大きな団体で人の後に従うより、小さな団体でもそのかしらとなるほうがよい、という意味で、価値の置き方が反対になっています。
「鯛の尾より鰯の頭」は、『俚言集覧』(1797年ごろ・江戸時代後期、太田全斎編)に用例があります。そこでは、小さな団体でも先頭に立つことをよしとする考えが、魚の頭と尾の対比で表されています。
これに対して、「鰯の頭をせんより鯛の尾に付け」は、同じ魚の比喩を使いながら、反対の生き方を勧めます。小さく弱いもののかしらになるより、大きく強いものの後ろにつくほうが安定しやすい、という判断を表すのです。
この違いは、単にどちらが正しいかを決めるものではありません。独立して先頭に立つことを重んじる考えと、強いものに従って安全を得ることを重んじる考えが、二つのことわざとして向かい合っています。
近い考えを表す言い方に「寄らば大樹の陰」があります。身を寄せるなら大木の下が安全であるように、同じ頼るなら勢力のある人に頼るほうがよい、という意味で、「鰯の頭をせんより鯛の尾に付け」と発想がよく重なります。
反対の発想は、中国の古い言い方に由来する「鶏口となるも牛後となるなかれ」にも表れています。強いものの後ろに従うより、小さくても独立したものの頭になれ、という教えで、「鰯の頭をせんより鯛の尾に付け」とは逆の価値観を示します。
そのため、このことわざは、勇気をもって先頭に立つことを勧める言葉ではありません。むしろ、大きく強いものに属することで安全や確実さを得るほうがよい、という現実的で慎重な判断を表すことわざです。
現在では、学校、会社、組織、地域活動などで、目立つ小さな立場より、安定した大きな場所に身を置く選択を表すときに使えます。ただし、人の挑戦や独立心を軽く見る響きもあるため、相手の生き方を決めつける言い方にならないよう注意が必要です。
「鰯の頭をせんより鯛の尾に付け」の使い方




「鰯の頭をせんより鯛の尾に付け」の例文
- 小さな団体の代表を引き受けるより、実績のある大きな団体で経験を積むほうがよいと考え、彼は鰯の頭をせんより鯛の尾に付けを選んだ。
- 創業したばかりの会社で役職につくより、大企業で基本を学びたいという考えは、鰯の頭をせんより鯛の尾に付けに近い。
- 地域大会の弱いチームで主将になるより、強豪チームの補欠として練習したいという判断に、鰯の頭をせんより鯛の尾に付けの考えが表れている。
- 経験の少ない仲間だけで店を始めるより、評判のよい店で修業するほうが確実だと考えた父は、鰯の頭をせんより鯛の尾に付けを大切にした。
- 新しい研究会を自分で作るより、有名な研究室に所属して基礎を学ぶ道を選ぶのは、鰯の頭をせんより鯛の尾に付けという判断である。
- 鰯の頭をせんより鯛の尾に付けとはいえ、安定だけを求めて自分の力を試す機会を失うことには注意が必要だ。
主な参考文献
・佐竹秀雄・武田勝昭・伊藤高雄編、北村孝一監修『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』小学館、2012年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・太田全斎編『俚言集覧』1797年ごろ。























