【ことわざ】
霞に千鳥
【読み方】
かすみにちどり
【意味】
ふさわしくないこと、または実際にはないことのたとえ。春の霞と冬の千鳥という、季節の合わない取り合わせからいう。


【英語】
・out of place.(場違いな、不釣り合いな)
【類義語】
・石に花(いしにはな)
・場違い(ばちがい)
「霞に千鳥」の語源・由来
「霞に千鳥」は、春の霞と冬の千鳥を一つに取り合わせることから生まれたことわざです。霞は春、千鳥は冬という季節感があるため、二つを並べると、ふさわしくないもの、実際にはありにくいもののたとえになります。
「霞」は、空気中の細かな水滴やちりによって、空や遠くの景色がぼんやりする現象を指します。古くは季節に限らず用いられることもありましたが、『万葉集』(8世紀後半成立、奈良時代)にも「可須美」の表記で春の景として詠まれ、のちに春の季語として強く結びつきました。
「霞」と「霧」は、古い時代には似た現象として用いられることがありました。しかし、『古今和歌集』以後は、春は霞、秋は霧というように、和歌の世界で季節の分け方がはっきりしていきました。
一方の「千鳥」は、チドリ科の鳥の総称として使われ、海岸や河原などの水辺にすむ鳥を指します。『万葉集』には、川原で鳴く千鳥を詠んだ歌があり、古くから詩歌に取り上げられてきました。
千鳥は、現在の自然観察としては一年中さまざまな姿がありますが、詩歌の約束では冬の景物として扱われるようになりました。冬の季語とする考え方には、『堀河百首』(1105〜1106年ごろ成立、平安時代後期)の歌題の影響があると考えられています。
このため、「霞」と「千鳥」は、どちらも自然の美しい景物でありながら、和歌や俳諧の季節感では同じ時節に並びにくいものです。そこから「霞に千鳥」は、季節が合わない取り合わせをもとに、ものごとがふさわしくない、縁がない、実際にはないという意味を表すようになりました。
また、このことわざには、空高くかかる霞と、低く飛ぶ千鳥という見方もあります。高いところに広がる霞と、水辺近くを飛ぶ千鳥との隔たりも、互いに遠く離れたもの、結びつきにくいものという意味を支えています。
古い用例として、『傾城色三味線』(1701年・江戸時代前期、江島其磧作)に「手遠き恋の思ひ立(たち)雲にかけはし霞(カスミ)にちどりあしして」とあります。『傾城色三味線』は、遊里と遊女を題材にした浮世草子で、江戸時代前期の町人文学の中で広く読まれた作品です。
この用例では、「霞に千鳥」という取り合わせが、遠く隔たった恋や、思うようにならない心の動きを表す文脈で使われています。ことわざとしての意味も、自然の景色そのものを述べるのではなく、合わないもの、遠く隔たったものをたとえる方向に働いています。
江戸時代の出版文化では、浮世草子や滑稽本などの中で、自然の景物を使ったたとえが読者に親しまれました。『傾城色三味線』も、京・大坂・江戸などの遊里を舞台にした短編を収め、八文字屋本の最初の作品として知られています。
こうして「霞に千鳥」は、和歌の季節感と、江戸時代の言葉遊び・たとえの文化を背景に、ふさわしくない取り合わせを表すことわざとして定着しました。現在も、単に好みが合わない場合ではなく、季節・場面・性質が明らかにちぐはぐな場合に用いるのがふさわしい言い方です。
「霞に千鳥」の使い方




「霞に千鳥」の例文
- 春祭りの案内に雪景色の絵を大きく入れるのは、霞に千鳥の取り合わせだ。
- 厳かな式典に派手すぎる音楽を流すと、霞に千鳥の印象を与える。
- 夏の海を紹介するポスターに冬のこたつを描けば、霞に千鳥と言われても仕方がない。
- 落ち着いた茶室に蛍光色の飾りを置くのは、霞に千鳥のようでふさわしくない。
- 歴史ある町並みの案内板に未来都市の絵を添えると、霞に千鳥の感じが強くなる。
- 和風の舞台に突然宇宙船の背景を出す演出は、狙いがなければ霞に千鳥になりやすい。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・江島其磧『傾城色三味線』1701年。
・『万葉集』8世紀後半成立。
・『堀河百首』1105〜1106年ごろ成立。
・Cambridge University Press『Cambridge Advanced Learner’s Dictionary & Thesaurus』Cambridge University Press.























