【ことわざ】
稼ぐに追いつく貧乏なし
【読み方】
かせぐにおいつくびんぼうなし
【意味】
一生懸命に働いていれば、貧乏に苦しむことはないというたとえ。楽な暮らしとは限らなくても、働き者なら何とか暮らしていけるという意味を表す。


【英語】
・poverty is a stranger to industry.(勤勉な人には貧乏が近づきにくい)
・diligence is the mother of good fortune.(勤勉は幸運を生むもとである)
【類義語】
・勤勉は幸福の母なり(きんべんはこうふくのははなり)
・鍬をかたげた乞食は来ない(くわをかたげたこじきはこない)
・稼げば身立つ(かせげばみたつ)
【対義語】
・稼ぐに追い抜く貧乏神(かせぐにおいぬくびんぼうがみ)
「稼ぐに追いつく貧乏なし」の語源・由来
「稼ぐに追いつく貧乏なし」の「稼ぐ」は、もともと一生懸命に働くこと、また仕事に励んで収入を得ることを表す言葉です。このことわざでは、働く人に貧乏が追いつけない、という動きのあるたとえになっています。
古い形としては、『北条氏直時代諺留(ほうじょううじなおじぶんことわざとめ)』(1599年ごろ・安土桃山時代)に「かせぐにびんぼふおひつかず」とあります。現在の「稼ぐに追いつく貧乏なし」とは語順が少し違いますが、勤勉な人には貧乏が追いつかないという考えは同じです。
この古い形では、「貧乏追い付かず」と言い、貧しさそのものを、人のあとを追いかけるもののように表しています。働き続ける人が前へ進み、貧乏がその後ろを追っても追いつけない、という姿を思い浮かべると、意味がよく分かります。
この表現は、ただ多くのお金を得ることをすすめる言葉ではありません。「常に精を出して働けば、貧乏に苦しむことはない」という意味で、日々の仕事に励むこと、暮らしを支えるために手を動かすことを重んじる考えを含んでいます。
江戸時代になると、商人や町人の生活を描く作品の中でも、このような勤労の考えがよくなじむようになります。井原西鶴作『世間胸算用(せけんむねさんよう)/大晦日ハ一日千金』(1692年・江戸時代前期刊)は、大晦日の町人生活と金銭のやりくりを描く浮世草子であり、このことわざの出典としても伝わります。
『世間胸算用』のような町人文学では、商い、借金、支払い、暮らしの工夫が身近な問題として描かれます。そのような世界では、働くことと暮らしを立てることが強く結びつき、「稼ぐに追いつく貧乏なし」という考えが、生活の知恵として受け入れられやすかったといえます。
後には、「稼ぐに追いつく貧乏なし」の形が広く定まりました。一方で、「稼ぐに貧乏追い付かず」という形も同じ意味の言い方として伝わっており、古い語順と現代の言い方が並んで残っています。
このことわざの大事な点は、「働けば必ず裕福になる」という単純な約束ではないことです。楽な暮らしには届かなくても、こつこつ働く人は何とか食べていける、というつつましい生活感覚に支えられています。
昭和の文章にも、「稼ぐに追いつく貧乏なし」として用いられた例があります。高峰秀子の『わたしの渡世日記』(1976年)では、忙しく働いて収入を得ていた当時を振り返る文脈で、このことわざが使われています。
現在でもこのことわざは、地道に働くこと、生活を自分の力で支えることを励ます場面で使われます。ただし、無理をして働きすぎることをすすめる言葉ではなく、怠らずに働く姿勢を重んじることわざとして受け取るのがよい表現です。
「稼ぐに追いつく貧乏なし」の使い方




「稼ぐに追いつく貧乏なし」の例文
- 毎日こつこつ働く父の姿を見ると、稼ぐに追いつく貧乏なしという言葉を思い出す。
- 祖母は、稼ぐに追いつく貧乏なしを口ぐせにして、若いころから仕事に励んできた。
- 店を始めた叔母は、稼ぐに追いつく貧乏なしと信じて、地道に商いを続けた。
- 稼ぐに追いつく貧乏なしとはいうが、体をこわさない働き方も大切だ。
- 兄はアルバイト代を少しずつ貯めながら、稼ぐに追いつく貧乏なしの意味を実感した。
- 会社が苦しい時期にも、社長は稼ぐに追いつく貧乏なしを胸に、まじめな仕事を重ねた。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・集英社辞典編集部編『会話で使えることわざ辞典』集英社、1989年。
・井原西鶴『世間胸算用』1692年。
・『北条氏直時代諺留』
・Electronic Dictionary Research and Development Group『JMdict.』























