【ことわざ】
蟹の念仏
【読み方】
かにのねんぶつ
【意味】
蟹が口から泡を出すように、口の中でぶつぶつ、くどくどとつぶやくさま。


【英語】
・mutter under one’s breath.(小声でぶつぶつ言う)
【類義語】
・ぶつぶつ(ぶつぶつ)
・独り言(ひとりごと)
【対義語】
・明言(めいげん)
「蟹の念仏」の語源・由来
「蟹の念仏」は、蟹が口のあたりから泡をぶくぶくと出す様子を、人が口の中で何かを小さく唱えている姿に見立てたことわざです。ここでの「念仏」は、仏を念じること、とくに仏の名を口に唱えることを指します。
念仏は、本来は信仰の行いを表す言葉です。仏や菩薩を心に思い浮かべたり、その名号を口に唱えたりすることをいい、日本では「南無阿弥陀仏」と唱える称名念仏がよく知られるようになりました。
このことわざでは、念仏の信仰上の意味そのものよりも、口の中で同じような言葉を小さく唱え続ける様子が比喩として用いられています。蟹の泡が、口もとでぶつぶつと動いているように見えるところから、人の聞き取りにくいつぶやきへ意味が移っています。
蟹が泡を出す姿は、古くから人目につきやすい自然の姿でした。水から出た蟹は、えらの中の水分が乾き始めると呼吸が苦しくなり、口やえらを動かして空気と水分が混じった泡を出します。
その泡は、丸い粒が次々に出て、口もとで細かくふくらむように見えます。この様子が、人が口の中で言葉をはっきり出さず、ぶつぶつとつぶやく姿に重ねられました。
「ぶつぶつ」という言葉には、小声でものを言うさま、不平や不満を言うさま、また小さな泡や粒がたくさんできるさまという意味があります。そのため、「蟹の念仏」は、音の印象と泡の形の印象が重なった、分かりやすい比喩になっています。
この表現の面白さは、蟹そのものが本当に念仏を唱えるわけではないところにあります。人間の目から見ると、蟹の泡が、口の中で何かを唱えているように見え、その見立てがそのまま言い回しとして定着しました。
「蟹の念仏」は、大声で主張する場面には使いません。はっきり相手に言うのではなく、聞こえるか聞こえないかの小声で、不満や心配を口の中にこもらせている様子を表します。
「独り言」とも近い表現ですが、「蟹の念仏」は、ただ一人で話すだけでなく、泡を吹く蟹の姿のように、ぶつぶつと続くところに特徴があります。そのため、少しこっけいさや、困ったような小声の印象を含みます。
現在でも、相手に直接言えばよいことを、口の中だけでくどくど言い続ける場面に使われます。蟹の泡という身近な自然の姿から、人間の話し方のくせを言い表したことわざです。
「蟹の念仏」の使い方




「蟹の念仏」の例文
- 弟は宿題の量に不満があるらしく、机の前で蟹の念仏のようにつぶやいていた。
- 会議の後ろの席で、彼は決まった方針について蟹の念仏を続けていた。
- 母に注意された兄は、部屋へ戻りながら蟹の念仏のように文句を言った。
- 試合で交代を命じられた選手が、ベンチで蟹の念仏を唱えるように小声で不満をこぼした。
- 友人は謝るべきところで、蟹の念仏のように言い訳ばかりつぶやいていた。
- 蟹の念仏では相手に気持ちは伝わらないので、言いたいことは落ち着いて話すべきだ。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『デジタル大辞泉』小学館。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2006年。
・平凡社編『改訂新版 世界大百科事典』平凡社。
・Oxford University Press『Oxford Advanced Learner’s Dictionary』Oxford University Press.
・学研教育情報資料センター『なぜなに学習相談 カニは、どうしてあわをふくの』Gakken。























