【故事成語】
完膚無し
【読み方】
かんぷなし
【意味】
傷のない皮膚がないこと。転じて、勝負・議論・批判などで徹底的に打ち負かされ、反論や余地が残らないこと。


【英語】
・beat someone to a pulp.(人をひどく打ちのめす)
・thoroughly defeated.(徹底的に打ち負かされた)
【類義語】
・完膚無きまで(かんぷなきまで)
・一敗地に塗れる(いっぱいちにまみれる)
【対義語】
・手心を加える(てごころをくわえる)
・手加減(てかげん)
「完膚無し」の故事
「完膚無し」の「完膚」は、傷のない完全な皮膚、または傷のない箇所を意味します。多くは打消しの言葉を伴って用いられ、「完膚なし」「完膚なきまで」のように、傷のないところが残らないほどの状態を表します。
この表現の背景には、中国唐代の人物である劉迺をめぐる話があります。唐の歴史を記した『旧唐書(くとうじょ)』(945年成立、五代後晋、劉昫ら撰)と、『新唐書(しんとうじょ)』(1060年成立、北宋、欧陽脩・宋祁ら撰)に、劉迺の伝が収められています。
『旧唐書』では、劉迺は若いころから聡明で、『六経』を暗記し、一日に数千言を唱えた人物として書かれています。のちに役人となり、文章の力も高く評価されました。
唐の徳宗の時代、建中四年の冬に兵乱が起こり、徳宗は奉天へ避難しました。劉迺は病気で自宅に伏せていましたが、反乱側の朱泚は使者を送り、劉迺を味方に引き入れようとしました。
劉迺は、重い病だと言って応じませんでした。さらに朱泚は、偽の宰相であった蔣鎮を送って誘いましたが、劉迺は口がきけないふりをして答えませんでした。
『旧唐書』には、このとき劉迺が「灸灼遍身」、つまり全身に灸をすえられたことが記されています。灸は、もぐさを皮膚の特定の所に据えて燃やし、熱で刺激する療法ですが、この場面では脅しや拷問のように用いられています。
『新唐書』では、この場面が「灸無完膚」と記されています。これは、灸をすえられて傷のない皮膚がなくなった、という意味です。
蔣鎮は再び劉迺のもとを訪れましたが、劉迺を脅して従わせることはできないと知りました。劉迺は、反乱側に身を汚すよりも、唐への忠義を守る道を選んだ人物として伝えられています。
この故事でのもとの意味は、文字どおり「傷のない皮膚がないほどに痛めつけられること」です。そこから、のちには肉体の傷だけでなく、議論・勝負・批判などで徹底的に打ち負かされることも表すようになりました。
日本語では、「完膚」は単独で使うよりも、「完膚なし」「完膚無きまで」「完膚なきまでに」のように、打消しを伴う形で使われます。近代の用例には、矢野龍渓『経国美談』の「身に完膚なし」や、夏目漱石『永日小品』の「完膚なき迄」という形があります。
現在の「完膚無し」は、相手を少し負かす程度ではなく、残るところなく打ちのめす、または反論の余地がないほどにやりこめるという強い意味をもちます。由来にある「傷のない皮膚が残らない」という激しい表現が、徹底した敗北や批判の意味につながっています。
「完膚無し」の使い方




「完膚無し」の例文
- 強豪校との試合は、攻めるすきもなく完膚無しの敗北となった。
- 彼の企画案は、根拠の弱さを次々に指摘され、会議で完膚無しにされた。
- 討論会で相手の反論に答えられず、彼の主張は完膚無しとなった。
- 古い家は台風で屋根も壁も傷み、完膚無しの姿になった。
- その評論は作品の欠点を容赦なく挙げ、作者の言い分を完膚無しにした。
- 決勝戦で相手の作戦にはまり、チームは完膚無しに打ち負かされた。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・劉昫ら撰『旧唐書』945年。
・欧陽脩・宋祁ら撰『新唐書』1060年。
・矢野龍渓『経国美談』1883〜1884年。
・夏目漱石『永日小品』1909年。
・Cambridge University Press『Cambridge English Dictionary.』























