【ことわざ】
勘定合って銭足らず
【読み方】
かんじょうあってぜにたらず
【意味】
帳簿の計算は合っているが、実際の現金が足りないこと。転じて、理屈の上ではうまくいくはずなのに、実際にはうまくいかないことのたとえ。


【類義語】
・算用合って銭足らず(さんようあってぜにたらず)
「勘定合って銭足らず」の語源・由来
「勘定合って銭足らず」は、商売や会計の場面から生まれたことわざです。「勘定」は、金銭や物の数量を数えること、また簿記で収益や費用などを記録・計算する形式を表します。
「銭」は、ここでは実際に手元にある金銭を指します。つまり、このことわざは、紙の上の計算や帳簿のつじつまは合っているのに、いざ支払おうとすると現金が足りない、という具体的な困りごとをもとにしています。
古い用例としては、『諺苑(げんえん)』(1797年・江戸時代後期、太田全斎著)に見えます。『諺苑』は、俗語や俗諺を集め、いろは順に並べて語釈や出典を示した国語辞書です。
『諺苑』の段階で、この言葉は「勘定に間違いはないが、現金が不足している」という意味をもち、理論と実際がうまく一致しないことのたとえとして用いられていました。商売の現場で、帳面の数字と手元の金の違いが問題になる感覚が、ことわざとしてすでに定着していたことが分かります。
このことわざの前半にある「勘定合って」は、計算そのものに誤りがないことを表します。売上、仕入れ、支払いなどを帳簿に書き入れ、数字を合わせるだけなら、理屈の上では筋が通っている状態です。
一方、後半の「銭足らず」は、実際に使える現金が不足している状態を表します。帳簿の数字が整っていても、売上の回収が遅れたり、支払いが先に来たりすれば、手元の金は足りなくなります。
そのため、このことわざの原義は、資金繰りがうまくいかず、現金が不足して苦しい商売上の状態にあることだと考えられます。現金の管理が粗い場合にも使われますが、ただの計算間違いではなく、商いの実際と帳簿上の数字とのずれを表すところに言葉の芯があります。
のちには、商売だけに限らず、理屈では正しいのに現実には成り立たないことにも使われるようになりました。計画書では費用が収まるはずなのに実際には足りない、予定では人手が足りるはずなのに現場では回らない、というような場面にも広がったのです。
近代の用例では、金子利八郎『簿記新論』(1936年)に「勘定合うて銭足らず」という形が出てきます。「合って」が「合うて」となっており、話し言葉に近い形でも使われていたことが分かります。
また、同じ意味に近い形として「算用合って銭足らず」もあります。「算」は、計算や勘定を表す言葉で、「算用」は金銭や数量を計算することを指します。
「勘定合って銭足らず」は、数字が合うことと、実際に足りることとは別である、という教訓を含んでいます。紙の上の正しさだけで安心せず、実際の金や物、人手がそろっているかまで見なければならない、という生活と商売の知恵を伝えることわざです。
「勘定合って銭足らず」の使い方




「勘定合って銭足らず」の例文
- 帳簿では利益が出ているのに支払いの現金が足りず、まさに勘定合って銭足らずとなった。
- 旅行の予算表はきれいにまとまっていたが、交通費の追加で勘定合って銭足らずになった。
- 売上は順調でも入金が遅れれば、勘定合って銭足らずで資金繰りに苦しむことがある。
- 計画書では人手が足りるはずだったが、当日は欠席者が出て勘定合って銭足らずになった。
- 家計簿の数字だけ見て安心していたら、月末に勘定合って銭足らずだと気づいた。
- 勘定合って銭足らずを防ぐには、計算だけでなく、実際に使えるお金の流れを見なければならない。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・小学館編『日本大百科全書(ニッポニカ)』小学館、1984〜1994年。
・太田全斎『諺苑』1797年。
・金子利八郎『簿記新論』1936年。























