【故事成語】
蚊をして山を負わしむ
【読み方】
かをしてやまをおわしむ
【意味】
力のない者に大きな任務をさせること。力不足で、とてもその任務に耐えられないこと。


【英語】
・beyond the capability of someone/something.(人や物の能力を超えていて難しい)
【類義語】
・荷が重い(にがおもい)
・力に余る(ちからにあまる)
【対義語】
・任に堪える(にんにたえる)
・適材適所(てきざいてきしょ)
「蚊をして山を負わしむ」の故事
「蚊をして山を負わしむ」は、小さな蚊に大きな山を背負わせるという、ありえないほど無理な取り合わせから生まれた表現です。中国語の形では「使蚊負山」と書き、蚊に山を負わせることを表します。
もとになった書物は、『荘子』(そうじ)です。『荘子』は中国の戦国時代の思想書で、荘周とその後の学派による書物とされ、内篇・外篇・雑篇に分かれ、寓話(ぐうわ)を用いて道家の思想を説きます。
この表現は、『荘子』内篇の「応帝王」に出てきます。そこでは、肩吾が狂接輿に会い、君主が自分の考えによって制度や基準を示せば、人々はそれに従って教化されると聞いた、と語ります。
それに対して狂接輿は、そのような治め方を「是欺德也」と退けます。さらに、天下を治めることについて、「猶涉海鑿河而使蚉負山也」と述べ、海を渡り、河を掘り、蚊に山を背負わせるようなものだとたとえます。
この場面での「蚊に山を負わせる」は、単に仕事が難しいという意味ではありません。小さな力しかないものに、到底担えないほど大きな負担を負わせる無理を、強い比喩で示しています。
「使蚊負山」の「使」は使役を表し、「〜させる」という働きをもつ字です。したがって「使蚊負山」は、蚊を用いて山を負わせる、すなわち力の小さいものに重すぎる任務を負わせるという形になります。
本文の系統によっては、「蚊」ではなく「蚉」と書かれる形もあります。「蚉」は「蚊」の異体字であり、どちらもここでは同じく「か」を表します。
後には、「蚊力負山」という形も使われました。この形は、蚊の力で山を背負うことから、力が小さいのに任務が重いことを表し、「蚊負」「蚊蚋負山」ともいいます。
日本語では、漢文を読む形から「蚊をして山を負わしむ」と表されます。また、四字熟語としては「使蚊負山(しぶんふさん)」と読み、与えられた任務をこなせないことのたとえとして用いられます。
現在の用法でも、意味の芯は「能力に合わない重い役目を負わせること」にあります。努力すれば何でもできるという話ではなく、仕事を任せる側が、相手の力や経験に合った任務かどうかを見きわめる必要を示す言葉です。
そのため、この故事成語は、人を責めるためよりも、任務の重さと人の力が釣り合っていないことを述べる場面に向きます。無理な命令や、準備のない人への過大な期待を戒める表現として受け取ると分かりやすくなります。
「蚊をして山を負わしむ」の使い方




「蚊をして山を負わしむ」の例文
- 入社したばかりの人に大きな契約を一人で任せるのは、蚊をして山を負わしむに等しい。
- まだ基本を習っていない生徒に難しい発表を任せるとは、蚊をして山を負わしむだ。
- 経験のない係に行事全体の責任を負わせるのは、蚊をして山を負わしむというものだ。
- 人数の少ない部署に全校分の資料作りを任せたため、蚊をして山を負わしむ状態になった。
- 小さな店に短期間で大企業並みの仕事量を求めるのは、蚊をして山を負わしむに近い。
- 蚊をして山を負わしむことにならないよう、仕事は能力と経験に合わせて分けるべきだ。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・『重編國語辭典修訂本』中華民國教育部。
・Cambridge University Press『Cambridge Dictionary』Cambridge University Press.
・『荘子』。























