【故事成語】
君射れば則ち臣決す
【読み方】
きみいればすなわちしんけっす
【意味】
上に立つ人が好むことや行うことを、下の者もまねるようになること。


【英語】
・Those below follow the example of those above.(下の者は上の者の手本にならう)
・People emulate their leaders.(人々は指導者をまねる)
【類義語】
・上を学ぶ下(かみをまなぶしも)
・上行下効(じょうこうかこう)
・楚王細腰を好みて宮中餓死多し(そおうさいようをこのみてきゅうちゅうがしおおし)
「君射れば則ち臣決す」の故事
「君射れば則ち臣決す」は、中国古典『荀子(じゅんし)』「君道」に出てくる「君射則臣決」にもとづく故事成語です。『荀子』は、中国戦国時代末期の儒家である荀子の思想を伝える書物で、現行本は三十二編から成ります。
「君道」は、君主がどのように国を治めるべきかを説く篇です。この中で、国を治めるには、まず君主自身が身を修めることが大切だという考えが述べられています。
原文の前後には、「君者儀也、民者景也」とあります。これは、君主は手本となる器具のようなもので、民はその影のようなものだという意味です。手本が正しければ影も正しくなる、というたとえによって、上に立つ人の姿勢が下の者に及ぶことを示しています。
続いて、「君者槃也、民者水也」「君者盂也、盂方而水方」とあります。皿が丸ければ水も丸くなり、器が四角ければ水も四角くなるというたとえです。下の者の姿は、上に立つ者の形や態度に合わせて変わるという考えが、分かりやすく示されています。
その流れの中に、「君射則臣決」とあります。「君」が弓を射るなら、「臣」はすぐに決を身につける、という意味です。ここでの「決」は、弓を引くときに指にはめる道具を指す言葉として読まれています。
この表現は、君主が弓術を好めば、臣下も弓を射る準備をし、同じことを行おうとする様子を表します。命令されたから従うというだけでなく、上の人の好みそのものが、下の者の行動を動かすという点が大切です。
同じ一節には、「楚莊王好細腰、故朝有餓人」と続きます。楚の王が細い腰を好んだため、宮廷には、やせようとして食事を減らす人が出た、という意味です。上に立つ人の好みが、下の人々のふるまいにまで広がることを、さらに強く示す例になっています。
この「細腰」の故事は、後にも「楚腰」という言葉として伝わりました。細い腰の美人、また腰の細い美人を表す言葉で、楚の王が細い腰を好んだため、寵愛を得ようとして絶食し、餓死する者が多く出たという故事にもとづくと説明されます。
「君射れば則ち臣決す」は、もとの形では政治の教えとして出てきます。国を治めるには制度や命令だけでなく、君主自身の行いが根本になるという考えが、この短い一句に込められています。
後代には、「君射臣決」という形で、上位にある者の好みは、下位の者が必ずまねるという意味の成語として定着しました。日本語では、漢文訓読の形で「君射れば則ち臣決す」と読み、上司、先生、親、先輩など、上に立つ人のふるまいが周囲へ広がる場面にも用いられます。
この故事成語は、下の者のまねを責めるだけの言葉ではありません。むしろ、上に立つ人には、自分の好みや行動が思った以上に大きな影響をもつことを自覚せよ、という戒めを含んでいます。
「君射れば則ち臣決す」の使い方




「君射れば則ち臣決す」の例文
- 校長が毎朝あいさつを続けたので、君射れば則ち臣決すのように、生徒たちも進んで声をかけ合うようになった。
- 社長が倹約を重んじると、君射れば則ち臣決すで、社員の間にも無駄を減らす意識が広まった。
- 部長が遅刻を軽く考えているため、君射れば則ち臣決すのごとく、部内の時間意識もゆるんでしまった。
- 家庭でも、親が読書を楽しんでいれば、君射れば則ち臣決すで、子どもも本に親しみやすくなる。
- 先輩が道具を丁寧に扱う姿を見て、後輩たちも君射れば則ち臣決すのように同じ習慣を身につけた。
- 君射れば則ち臣決すというように、指導者の小さなふるまいが、組織全体の風土を作ることがある。
主な参考文献
・教育部重編國語辭典修訂本編輯委員會編『重編國語辭典修訂本』中華民國教育部、2021年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・山川出版社編『山川 世界史小辞典 改訂新版』山川出版社、2004年。
・Merriam-Webster, Inc.『Merriam-Webster.com Dictionary』Merriam-Webster.
・荀況『荀子』。























