【ことわざ】
金時の火事見舞い
【読み方】
きんときのかじみまい
【意味】
顔が非常に赤くなっていることのたとえ。とくに、酒を飲んで真っ赤になった顔をいう。


【英語】
・go bright red.(顔が真っ赤になる)
【類義語】
・金時の醤油煮き(きんときのしょうゆだき)
「金時の火事見舞い」の語源・由来
「金時の火事見舞い」の「金時」とは、源頼光(みなもとのらいこう)の四天王の一人として伝わる坂田金時のことです。坂田金時の幼名は金太郎で、後の時代には、足柄山(あしがらやま)で育った力の強い子どもとして広く親しまれました。
坂田金時の名は、『今昔物語集(こんじゃくものがたりしゅう)』(1120年ごろ成立か・平安時代後期)巻二十八にも、「公時」という表記で出てきます。ただし、この古い物語に「火事見舞い」ということわざが記されているわけではありません。ここからは、後に金太郎として知られる人物の名が、早くから物語の中に現れていたことが分かります。
やがて金太郎は、赤い肌や赤い頬をもつ、たくましい子どもの姿で、人形などに表されるようになりました。そのため、「金時」という言葉そのものが、赤ら顔の人を指すたとえにも使われるようになりました。
この使い方は、「金時の火事見舞い」という形が現れる以前にも認められます。徳富蘆花の小説『黒潮』(明治35〜38年、徳富蘆花著)には、酒を重ねた人物の様子を「大人国の金時の様に」と表した箇所があり、酒で赤くなった顔を金時になぞらえる言い方が、明治時代にはすでに使われていました。
「金時の火事見舞い」は、もともと赤い顔をした金時が火事の見舞いに出かけ、炎の光や熱気を受けて、さらに顔を赤くしている様子を思い描いた表現です。赤いものに、さらに赤くなる状況を重ねることで、顔が並外れて赤いことを面白く強調しています。
古い用例としては、田山花袋の回想集『東京の三十年』(大正6年、田山花袋著)に出てきます。この書物は1917年に博文館から刊行され、明治から大正にかけての東京や文壇の出来事を振り返った作品です。
その中の「KとT」では、酒を五勺ほど飲んだ人々について、「顔は金時火事見舞といふやうになった」と書かれています。少量の酒でも呼吸が高くなり、顔が真っ赤になった様子を、このことわざによって生き生きと表しています。
この用例では、「金時火事見舞」と「の」を入れない形が使われています。その後は、「金時の火事見舞」または「金時の火事見舞い」という形が一般的になり、非常に赤い顔、とくに酒で赤くなった顔を表すことわざとして定着しました。
同じ発想から生まれた「金時の醤油煮き」という言い方もあります。赤ら顔の金時を醤油で煮れば、いっそう赤くなるという想像にもとづくもので、「金時の火事見舞い」と同じ意味を表します。
現在の「金時の火事見舞い」は、顔が赤いという外見を、親しみのある金太郎の姿と火事場の熱気とに重ねた表現です。怒りそのものを表すことわざではなく、まず、顔色が目立つほど赤くなった様子を、少しおかしみを込めて言い表すところに特徴があります。
「金時の火事見舞い」の使い方




「金時の火事見舞い」の例文
- 宴会から帰った父は、金時の火事見舞いのような顔をしていた。
- 激辛料理を食べ終えた彼は、金時の火事見舞いさながらの赤い顔になった。
- 長い坂道を駆け上がり、弟の顔は金時の火事見舞いのように赤くなった。
- 暖房の効いた部屋へ入ると、祖父はたちまち金時の火事見舞いになった。
- 少し酒を口にしただけで、彼女は金時の火事見舞いのような顔色になった。
- 熱い風呂から出てきた兄を見て、母は金時の火事見舞いだと笑った。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・田山花袋『東京の三十年』博文館、1917年。























