【故事成語】
木強ければ則ち折る
【読み方】
きつよければすなわちおる
【意味】
堅く強すぎる木がしなやかに曲がれず折れやすいように、強気で押し通す人は柔軟性に乏しく、かえって挫折しやすいというたとえ。


【英語】
・Sooner break than bow.(曲がるより先に折れる、柔軟さを欠くものは壊れやすい)
【類義語】
・堅い木は折れる(かたいきはおれる)
・強き木はむず折れ(つよききはむずおれ)
【対義語】
・柳に雪折れなし(やなぎにゆきおれなし)
「木強ければ則ち折る」の故事
「木強ければ則ち折る」は、漢文の「木強則折」を日本語に読み下した形です。「木」は木そのもの、「強」は堅く強すぎること、「則」は「そうであれば」、「折」は折れることを表します。
この言葉のもとには、中国古典に見える「柔らかいものは生き、堅すぎるものは衰える」という考えがあります。生きている人や草木は柔らかく、死んだものは堅くなるという観察から、強さだけを重んじる態度を戒めています。
『老子道徳経』は、道家の祖である老子の著と伝わる一方、漢代初期に道家思想をまとめた書物とも位置づけられます。上冊の「道経」と下冊の「徳経」から成り、『老子』または『道徳経』とも呼ばれてきました。
『老子道徳経』第七十六章には、「人之生也柔弱、其死也堅強」という趣旨の言葉が出てきます。人は生きているときは柔らかく、死ぬと堅くなり、草木も生きているときは柔らかく、枯れると堅くなる、という対比です。
この章の本文には、伝本によって字の異同があります。一系統では「是以兵強則不勝、木強則共」と伝わりますが、注釈や校訂では、『列子』や『文子』、『淮南子』に見える「兵強則滅、木強則折」の形をもとに、「木強則折」を通じる形として扱う考えが示されています。
『淮南子(えなんじ)』(前漢、紀元前2世紀、劉安編)は、道家の思想を中核として多くの知識を集めた全二十一編の書物です。前漢の淮南王であった劉安が、多くの文人や学者を集めて編んだものです。
その『淮南子』「原道訓」には、「故兵強則滅、木強則折、革固則裂、齒堅於舌而先之弊」とあります。これは、軍が強すぎれば滅び、木が強すぎれば折れ、皮が固すぎれば裂け、歯は舌より堅いので先にだめになる、という意味です。
この並びでは、「木強則折」だけが孤立しているのではありません。兵・木・革・歯を並べ、堅く強いものがかえって損なわれやすいことを、いくつもの例で説いています。
『列子(れっし)』は、中国の道家思想書で、現行本は前漢末から晋代にかけて成立したといわれます。その「黄帝」篇にも、老聃の言葉として「兵彊則滅。木彊則折」という近い形が出てきます。
『文子』「道原」にも、「兵強則滅、木強則折」と同じ趣旨の句が出てきます。これらの例から、この表現は、柔弱と剛強を対比する道家思想の中で、くり返し用いられてきた言い方だと分かります。
日本語では、漢文を訓読して「木強ければ則ち折る」と読まれます。また、より日常的な言い方として「木、強ければ折れ易し」「堅い木は折れる」などの形でも、同じ発想が表されます。
この故事成語が伝えるのは、弱いほうがよいという単純な意味ではありません。強さにしなやかさが伴わないと、急な変化や強い圧力を受けたときに折れてしまう、という戒めです。
現在では、人の性格や考え方、組織の方針、仕事の進め方などにも広く用いられます。自分の正しさだけで押し切ろうとせず、相手の話を聞き、状況に合わせて考えを調整することの大切さを教える故事成語です。
「木強ければ則ち折る」の使い方




「木強ければ則ち折る」の例文
- 社長が自分の方針だけを押し通したため、木強ければ則ち折るというように、会社は変化に対応できなくなった。
- 監督は選手の意見を聞かずに同じ作戦を続け、木強ければ則ち折る結果を招いた。
- 兄は一人で全部やると言い張ったが、木強ければ則ち折るで、途中で疲れ果ててしまった。
- 交渉では、木強ければ則ち折るを忘れず、相手の事情にも耳を傾ける必要がある。
- 新しい方法を一切認めない考え方は、木強ければ則ち折るという失敗につながりやすい。
- 彼はまじめで責任感が強いが、木強ければ則ち折るにならないよう、休む勇気も持つべきだ。
主な参考文献
・白川静『字通』平凡社、1996年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・『老子道徳経』。
・劉安編『淮南子』前漢、紀元前2世紀。
・『列子』。
・中華民国教育部『重編國語辭典修訂本』。























