【ことわざ】
器用貧乏人宝
【読み方】
きようびんぼうひとだから
【意味】
どのようなことでも一応は上手にできるため、他人には重宝がられるが、自分は一つのことに徹しきれず、結局は大成しないこと。


【英語】
・Jack-of-all-trades, master of none.(多くのことができるが、どれにも熟達していない)
【類義語】
・細工貧乏人宝(さいくびんぼうひとだから)
・多芸は無芸(たげいはむげい)
「器用貧乏人宝」の語源・由来
「器用貧乏人宝」は、「器用貧乏」と「人宝」を続けた言い方です。「器用」は、手先をうまく動かして芸事や工作をこなすことのほか、さまざまな物事を要領よく処理することも表します。「器用貧乏」は、何でも一応できるため、かえって一つのことに集中できず、大成しにくい状態を指します。
後半の「人宝」は「ひとだから」と読みます。ここでいう「宝」は、本人に富をもたらす財宝ではなく、周囲の人にとって役に立つ、頼りになる存在であることを表します。つまり、本人は力を一つの仕事に注ぎ切れず、恵まれないままでも、他人から見れば便利で貴重な人だということです。
このことわざは、「貧乏」と「宝」という、反対に近い言葉を並べているところに特徴があります。何でもできる人は、多くの仕事を頼まれて周囲を助けますが、そのために自分の仕事へ取り組む時間を失ったり、どの分野も一通りの腕前にとどまったりします。「人には宝でありながら、自分のためには力を生かし切れない」という皮肉を、短い言葉で表しています。
現在の言い方につながる古い形には、「細工貧乏人宝」があります。「細工」は、木や金属などに手を加えて物を作ることを指します。この形では、手先の器用な職人が人から頼られる一方、自分は経済的に恵まれず、大成もしにくいことを表します。
「細工貧乏人宝」の古い用例は、井原西鶴の俳諧句集『西鶴大矢数(さいかくおおやかず)』(1681年・江戸時代前期、井原西鶴著)に出てきます。そこには、「花の木や細工貧乏人宝 夫山吹は小鋸なり」とあります。遅くとも江戸時代前期には、「細工貧乏」と「人宝」とを結び付けた言い方が使われていました。
『西鶴大矢数』は、西鶴が大坂の生玉社南坊で、一日一夜に詠んだ四千句を収めた五冊の俳諧句集です。題名の「大矢数」は、多くの矢を射る競技になぞらえ、限られた時間に数多くの句を作る矢数俳諧(やかずはいかい)を表しています。
江戸時代の「細工貧乏人宝」は、主に手仕事の巧みな人を思わせる表現でした。その後、手先の仕事だけでなく、芸事や事務、世話役など、さまざまなことを一通りこなせる人にも、「器用貧乏」という言い方が使われるようになります。
芥川龍之介の短編小説『老年(ろうねん)』(大正3年、芥川龍之介著)には、「器用貧乏と、持ったが病の酒癖とで」という一節があります。作中の房さんは、歌沢の師匠も務めれば、俳諧の点者も務めるという多才な人物ですが、家の財産を失い、生活にも苦労してきた人として描かれています。ここでは、「器用貧乏」が、手細工に限らず、さまざまな芸をこなせても身を立てられない状態を表しています。
このように、古い「細工貧乏人宝」が表した職人の器用さは、やがて広い意味の「器用貧乏」へと重なっていきました。現在の「器用貧乏人宝」は、何事もこなせるために周囲から重宝される一方、本人は一つの道を究められず、十分に報われないという意味で定着しています。
このことわざで大切なのは、単に「多才な人は成功しない」ということではありません。「人宝」という部分によって、その人の能力が周囲には大いに役立っていることまで表します。ほめる気持ちを含む場合もありますが、本人が頼まれ事に追われ、自分の力を十分に生かせないことへの同情や戒めも伴う言い方です。
「器用貧乏人宝」の使い方




「器用貧乏人宝」の例文
- 何でも頼まれて自分の研究に集中できない彼は、器用貧乏人宝になりかけている。
- 祖父は近所の家具や電気製品まで直して回るため、家族から器用貧乏人宝だと言われている。
- 彼女は資料作りも司会も会計もこなすが、器用貧乏人宝で、自分の専門を深める時間がない。
- 地域の行事があるたびに仕事を任される父は、まさに器用貧乏人宝である。
- 器用貧乏人宝にならないよう、引き受ける仕事を選び、自分の目標に使う時間を確保した。
- 彼はどの部署でも重宝される一方で昇進の機会を逃し、器用貧乏人宝と評された。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・井原西鶴『西鶴大矢数』1681年。
・芥川龍之介『老年』1914年。
・Cambridge University Press & Assessment『Cambridge Dictionary.』























