【故事成語】
羈鳥旧林を恋い池魚故淵を思う
【読み方】
きちょうきゅうりんをこいちぎょこえんをおもう
【意味】
故郷や、束縛のない本来の暮らしを恋しく思うたとえ。


【英語】
・The caged bird longs for its old woods, and the pond fish for its former depths.(かごの鳥は昔の林を恋い、池の魚はもとの深い淵を慕う)
【類義語】
・越鳥南枝に巣をかけ、胡馬北風に嘶く(えっちょうなんしにすをかけ、こばほくふうにいななく)
・狐死首丘(こししゅきゅう)
【対義語】
・住めば都(すめばみやこ)
「羈鳥旧林を恋い池魚故淵を思う」の故事
この言葉のもとは、中国・東晋(とうしん)の詩人である陶淵明が、官職を退いた後に詠んだ五首の連作『帰園田居(えんでんのきょにかえる)』の第一首です。陶淵明は405年に役人の職を辞して郷里へ帰り、翌406年にこの連作を作ったとされています。
陶淵明は詩の初めで、若いころから世間に調子を合わせる性質がなく、本来は丘や山を愛していたにもかかわらず、誤って「塵網(じんもう)」の中に落ち、長い年月を過ごしたと述べています。塵網とは、逃れにくい俗世のしがらみを網にたとえた言葉で、この詩では特に窮屈な官吏生活を表します。
そのあとに、「羈鳥戀舊林,池魚思故淵」とあります。「羈鳥(きちょう)」はつなぎ留められた鳥、「旧林(きゅうりん)」はその鳥が以前いた林、「池魚(ちぎょ)」は池に囲われた魚、「故淵(こえん)」はその魚がもといた深い淵を指し、鳥と魚が本来のすみかを慕う姿を対にして描いています。
この鳥と魚は、陶淵明自身のたとえです。役人の世界に縛られた自分を、自由を失った鳥や魚に重ね、故郷の田園と、自分の性質に合った素朴な暮らしへ戻りたいという心を表しました。
続く「開荒南野際,守拙歸園田」では、南の野を開き、世渡りの巧みさを求めず、園田へ帰って暮らす決意を示しています。そして詩の結びには、「久在樊籠裏,復得返自然」とあり、長く籠の中にいたものが、再び自然へ戻ることのできた喜びを述べています。
原文の字体は「羈鳥戀舊林,池魚思故淵」です。日本語では、「戀」を「恋」、「舊」を「旧」という現在の字体に改め、漢文の語順を訓読して、「羈鳥旧林を恋い、池魚故淵を思う」という形で読まれています。
また、前半を取り出した「羈鳥旧林」と、後半を取り出した「池魚故淵」も、それぞれ故郷や以前の居場所を恋しく思う意味で用いられます。二つを続けた形では、単に故郷を懐かしむだけでなく、束縛を離れ、本来の居場所や生き方へ戻りたいという願いまで、いっそう鮮やかに伝わります。
このように、「羈鳥旧林を恋い池魚故淵を思う」は、遠く離れた故郷を慕う場合にも、窮屈な環境から解放され、自分らしい暮らしへ帰りたい場合にも用いられます。鳥と魚という二つの姿を通して、帰るべき場所への深い思いを表す故事成語です。
「羈鳥旧林を恋い池魚故淵を思う」の使い方




「羈鳥旧林を恋い池魚故淵を思う」の例文
- 留学生活が長くなるにつれ、彼は羈鳥旧林を恋い池魚故淵を思う心で、故郷の山々を思い出した。
- 都会での勤務に疲れた父は、羈鳥旧林を恋い池魚故淵を思うように、海辺の故郷へ戻った。
- 故郷の祭りの笛を聞くと、羈鳥旧林を恋い池魚故淵を思う気持ちが胸にこみ上げる。
- 長い入院生活の間、祖母は羈鳥旧林を恋い池魚故淵を思う心で、自宅の庭を懐かしんだ。
- 窮屈な会社生活を離れて農村へ戻った彼の決断には、羈鳥旧林を恋い池魚故淵を思うという願いが表れていた。
- 海外赴任から帰国した友人は、羈鳥旧林を恋い池魚故淵を思う心がようやく満たされたと語った。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・白川静『字通』平凡社、1996年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・土屋聡「陶淵明『帰園田居』五首における住居について―「方宅十余畝、草屋六七間」句を中心に―」『中国文学論集』第51号、九州大学中国文学会、2022年。
・陶淵明『帰園田居』406年。























