【ことわざ】
彼方によければ此方の恨み
【読み方】
かなたによければこなたのうらみ
【意味】
一方にとってよいようにしたことが、もう一方には不満や恨みのもとになること。双方にとって都合のよい形にするのは難しいというたとえ。


【英語】
・You can’t please everyone.(だれもが気に入るようにはできない)
【類義語】
・彼方立てれば此方が立たぬ(あちらたてればこちらがたたぬ)
・彼方を祝えば此方の怨み(あなたをいわえばこなたのうらみ)
・痛し痒し(いたしかゆし)
【対義語】
・一挙両得(いっきょりょうとく)
・一石二鳥(いっせきにちょう)
「彼方によければ此方の恨み」の語源・由来
「彼方によければ此方の恨み」は、向こう側にとって都合がよければ、こちら側には不満が生じるという対立を表したことわざです。「よければ」は、ある立場から見て都合がよいこと、「恨み」は、不公平な扱いや不利益を受けたと感じる気持ちを表します。
この表現の土台には、「彼方」と「此方」という、向かい合う二つの側を示す言葉があります。「彼方」は、話し手と聞き手から離れた方向や向こう側を指し、「此方」は、こちら側、または話し手に近い側を指します。
「彼方」は、古くから「あちら」「あなた」「かなた」など、いくつかの読みと用法をもつ言葉でした。『古今和歌集』(905〜914年ごろ成立、平安時代前期)には、雲の向こうを指す「雲のあなた」という用例があり、遠い側を表す言葉として使われています。
一方、「此方」は「こなた」と読み、こちら側を表す語として古くから使われました。「此方彼方」は「こなたかなた」と読み、こちら側と向こう側、またはあちらこちらを表す言葉です。
このように、「彼方」と「此方」は、もともと空間上の向こう側とこちら側を分ける言葉でした。そこから、人間関係や利害関係において、向こうの立場とこちらの立場を分けて考える言い方にも広がりました。
同じ発想をもつことわざに、「彼方立てれば此方が立たぬ」があります。これは、一方のよいようにすれば他方には悪くなり、両立しがたいことをいうことわざで、「あなた立てればこなた立たぬ」という形もあります。
明治時代の落語『白木屋』(1891年、三代目春風亭柳枝)には、この考え方に近い用例が伝わっています。また、藤井乙男『俗諺論 全』(1906年・明治時代、藤井乙男著)には「あちら立つれば、こちらが立たぬ。」という形が出てきます。
さらに、田河水泡『のらくろ自叙伝』(昭和51年、田河水泡著)には、「あちら立てればこちらが立たず、両方立てれば身が立たず」という使い方が出てきます。どちらか一方の顔を立てると、もう一方への義理を欠いてしまうという悩ましさが、よく表れています。
「彼方を祝えば此方の怨み」という近い形もあります。こちらは、向こう側にとって喜ばしいことが、こちら側には不満や不利益になるという意味をもち、「彼方によければ此方の恨み」と同じく、二つの側を同時に満足させる難しさを表します。
「彼方によければ此方の恨み」は、「立てる」や「祝う」という言い方よりも、利益と感情のずれを直接に示す表現です。向こう側にとってよい判断であっても、こちら側には不公平に思われ、恨みを買うことがあるという、人間関係の難しさを伝えています。
現在では、家庭内の決めごと、学校での役割分担、会社での予算配分、地域や国同士の利害調整など、片方を優先するともう片方が不満をもつ場面で使われます。単に「みんなを喜ばせるのは難しい」というだけでなく、立場の違う人の気持ちまで考える必要があることを教えることわざです。
「彼方によければ此方の恨み」の使い方




「彼方によければ此方の恨み」の例文
- 兄だけに新しい机を買うと妹が不満を抱き、彼方によければ此方の恨みとなった。
- クラスの代表を一人に決める場面では、彼方によければ此方の恨みにならないよう、理由をはっきり示す必要がある。
- 駅前の駐車場を広げる案は車で来る人には便利だが、歩行者には危なく、彼方によければ此方の恨みの問題を含んでいる。
- 会社の予算を営業部に多く回せば、開発部から反発が出て、彼方によければ此方の恨みとなる。
- 運動会の練習時間をリレーに多く使えば、合唱の練習をしたい子が困り、彼方によければ此方の恨みになりやすい。
- 町の行事の日程を土曜日にすれば、その日仕事の人には負担となり、彼方によければ此方の恨みと言える。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・集英社辞典編集部編『会話で使えることわざ辞典』集英社、1989年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・紀貫之ら撰『古今和歌集』905〜914年ごろ。
・藤井乙男『俗諺論 全』冨山房、1906年。























