【ことわざ】
蜘蛛の巣で石を吊る
【読み方】
くものすでいしをつる
【意味】
到底実現できないこと、または、支えがきわめて不安定で危険なことのたとえ。


【英語】
・a fool’s errand.(むだに終わる無益な企て)
・hang by a thread.(きわめて危うい状態にある)
【類義語】
・一髪千鈞を引く(いっぱつせんきんをひく)
・累卵の危うき(るいらんのあやうき)
「蜘蛛の巣で石を吊る」の語源・由来
「蜘蛛の巣」は、蜘蛛が糸を張って作った網のことです。「吊る」は、物の上部を固定し、空中にぶら下げることを表します。一方、「石」は、硬く重い物の代表として用いられています。つまり、このことわざは、細い蜘蛛の巣に重い石を支えさせるという、力の釣り合わない光景を言葉にしたものです。
蜘蛛の巣は、小さな虫を捕らえるための網としては役に立ちます。しかし、石のような重い物を吊れば、糸や網がその重さに耐えられず、目的を果たせません。この分かりやすい対照から、初めから実現の見込みが乏しい企てを表す意味が生まれました。
古い形の一つは、昭和14年(1939年)、中村正雄が『Acta Arachnologica』第4巻第2号に発表した「樂之堂隨筆(第三)」に出てきます。そこでは、蜘蛛にまつわる言い回しを並べた中に、「蜘蛛の巣では石を吊るされぬ」と記されています。「吊るされぬ」は、ここでは「吊ることができない」という意味です。
この昭和初期の例は、現在の形とは少し異なり、「蜘蛛の巣では石を吊ることができない」と、結論まで述べる否定の文になっています。後には、結論を省いた「蜘蛛の巣で石を吊る」という簡潔な形が広まり、「蜘蛛の巣で石を吊るようなものだ」など、ある計画や行為をたとえる形で使われるようになりました。
このことわざには、「できそうにない」という意味だけでなく、「危険である」という意味もあります。蜘蛛の巣が石の重さに耐えられなければ、石はいつ落ちるか分かりません。そのため、無理な計画であることと、支えが壊れて大きな失敗につながりかねないことの両方を表します。
表現の巧みさは、「細く軽い蜘蛛の巣」と「硬く重い石」を一つの場面に置いたところにあります。長い説明をしなくても、支える側が弱すぎることと、支えられる側が重すぎることが、ひと目で伝わります。
したがって、単に少し難しい仕事や、努力すれば達成できる課題には、あまり適しません。使える人手・費用・道具などが、目的に比べて極端に足りず、成功がほとんど望めない場合や、そのまま進めれば危険を招く場合に用いることわざです。
細い網に重い石を預けるという無理な取り合わせが、実現不可能な企てと、今にも崩れそうな危険な状態を同時に表すようになり、「蜘蛛の巣で石を吊る」という現在のことわざに定着したのです。
「蜘蛛の巣で石を吊る」の使い方




「蜘蛛の巣で石を吊る」の例文
- 予算も人手もないまま巨大な橋を一月で完成させる計画は、蜘蛛の巣で石を吊るようなものだ。
- 古びた細縄だけで重い荷物を崖の上へ引き上げるのは、蜘蛛の巣で石を吊るに等しい。
- 厚紙の柱で大きな舞台を支えようとする案は、まさに蜘蛛の巣で石を吊る計画だ。
- 全国から届く注文を一人だけで処理させるとは、蜘蛛の巣で石を吊るような仕事の任せ方だ。
- 傷んだ一本のロープを頼りに谷を渡るのは、蜘蛛の巣で石を吊るほど危険な行為だ。
- 古い一台の機械に工場全体の生産を任せる会社は、蜘蛛の巣で石を吊るような運営を続けている。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・小学館『デジタル大辞泉』。
・中村正雄「樂之堂隨筆(第三)」『Acta Arachnologica』第4巻第2号、日本蜘蛛学会、1939年。
・Merriam-Webster,『Merriam-Webster.com Dictionary.』























