【ことわざ】
口には関所がない
【読み方】
くちにはせきしょがない
【意味】
人の口から出る言葉には、それをさえぎる関所がないので、どんなことでも自由に口にできるというたとえ。


【類義語】
・口に地代は出ない(くちにじだいはでない)
「口には関所がない」の語源・由来
「関所(せきしょ)」とは、国境や街道の要所に設けられ、通行する人や荷物を調べる施設のことです。通行を認められない者を止める働きがあり、実際の道に置かれた大きな障壁でした。
江戸時代には、東海道の箱根や新居(あらい)、中山道の碓氷(うすい)など、主要な街道に多くの関所が置かれました。通行人は関所で調べを受け、必要な手形を持たない者や決まりに反する者は、自由に通り抜けることができませんでした。
とくに、江戸幕府の関所は、「入鉄砲に出女」という言葉で表される取締りを重要な役目としていました。江戸へ持ち込まれる鉄砲や、江戸から国元へ出ようとする大名の妻子などを厳しく調べ、政治や治安を守っていたのです。
「口には関所がない」は、このような実際の関所を、人が話す言葉に重ねたものです。街道には通行人を調べて止める番人がいますが、人の口には、出ようとする言葉を一つ一つ調べ、外へ出ないように止める番人はいません。
そのため、人は、本当のことでも間違ったことでも、慎み深い言葉でも身勝手な言葉でも、口にしようと思えば口にできます。このことわざは、その自由さを喜ぶというよりも、言葉があまりに簡単に出てしまうことを皮肉る場合に多く用います。
表現には、「口には関所はない」という形もあり、「口に関所なし」と短く言う形もあります。また、昭和期の用例には「口に関所がない」という形もあり、「には」と「に」、「がない」と「なし」という違いはあっても、口から出る言葉を止める関所はないというたとえは共通しています。
『英語青年』第88巻第4号(昭和17年)に載った中野好夫の「直言する(3)」には、「口に関所がないとはよく言つたものだ」とあります。戦争が始まると、それまでとは異なる、その時々に都合のよい主張を唱え始めた人々を批判する文脈で使われています。
この用例では、単に「何を言ってもよい」という意味ではなく、口には言葉を止める仕組みがないため、人は自分に都合のよいことまで平然と言えてしまう、という皮肉が込められています。現在も、根拠のない話や無責任な約束、相手を傷つける発言などをたしなめる場合に、このことわざを用います。
類義語の「口に地代は出ない」は、どれほど勝手なことを話しても地代を取られるわけではないとして、身勝手な放言を皮肉ることわざです。「関所」は言葉を止めるものがないことに、「地代」は言葉を発しても費用がかからないことに目を向けていますが、どちらも、口先では何とでも言えることを戒めています。
このように、「口には関所がない」は、かつて街道の通行を厳しく取り締まった関所を、言葉には存在しないものとして描いた表現です。言葉は関所を通らずに外へ出てしまうからこそ、口にする前に自分でよく考える必要があることを、分かりやすいたとえによって伝えています。
「口には関所がない」の使い方




「口には関所がない」の例文
- 彼は口には関所がないとばかりに、確かめてもいないうわさを友人に話した。
- 弟は口には関所がないからと、家族の気持ちを考えず不満を並べた。
- 口には関所がないとはいえ、相手を傷つける言葉まで許されるわけではない。
- 実行する気のない約束を重ねる生徒に、先生は口には関所がないからといって無責任なことを言うなと注意した。
- 部長は口には関所がないとばかりに、現場の事情を考えず注文だけを増やした。
- 匿名の投稿者は口には関所がないとばかりに、根拠のない批判を書き連ねた。
主な参考文献
・小学館編『日本大百科全書』小学館、1984〜1994年。
・中野好夫「直言する(3)」『英語青年』第88巻第4号、1942年。
・斎藤浩一「中野好夫『直言する』(1942~43)について」『東京海洋大学研究報告』第14号、2018年。























