【唇亡びて歯寒し】の意味と使い方や例文!故事は?(類義語)

唇亡びて歯寒し

【故事成語】
唇亡びて歯寒し

【読み方】
くちびるほろびてはさむし

【意味】
互いに助け合う関係にあるものの一方が滅びると、もう一方の存在も危うくなることのたとえ。

ことわざ博士
唇亡びて歯寒しは、唇に守られていた歯が、唇を失えば寒さにさらされることになぞらえた表現だよ。
助手ねこ
国・組織・人など、利害と存立が深く結びついた一方を見捨てれば、他方にも危険が及ぶ場面で用いるニャン。

【類義語】
・唇歯輔車(しんしほしゃ)
・輔車相依る(ほしゃあいよる)

「唇亡びて歯寒し」の故事

故事成語を深掘り

「唇亡びて歯寒し」は、古代中国の歴史書『春秋左氏伝(しゅんじゅうさしでん)』(戦国時代成立と伝わる)の「僖公(きこう)五年」に出てくる言葉です。原文には、「諺に所謂、輔車相依り、脣亡びて齒寒しとは、其れ虞・虢の謂なり」とあり、唇がなくなれば歯が寒くなるという関係を、虞(ぐ)と虢(かく)という二つの国になぞらえています。

この出来事の始まりは、「僖公二年」の記述にさかのぼります。大国の晋(しん)の献公(けんこう)は、虢を攻めるため、隣国の虞を通過する必要がありました。そこで、晋の家臣である荀息(じゅんそく)は、名馬と美しい玉を虞に贈り、軍隊を通す道を借りるよう進言しました。

献公は、大切な宝物を渡すことを惜しみました。しかし荀息は、虞をいずれ滅ぼすことができれば、宝物は外の倉に預け、馬は外の厩(うまや)につないでおくようなものだと説きました。虞の君主は贈り物を受け取り、晋の軍隊が領内を通ることを許しました。

三年後の紀元前655年、晋は再び虞に道を借り、虢を攻めようとしました。虞の家臣である宮之奇(きゅうしき)は、虞の君主をいさめ、「虢は虞を外から守る備えです。虢が滅びれば、虞も必ずその後に続きます」と訴えました。続けて、「輔車相依り、脣亡びて齒寒し」ということわざは、まさに虞と虢の関係を表していると説いたのです。

「輔車相依る」とは、互いに支え合い、切り離せない関係を表します。宮之奇は、虢が晋の攻撃を防ぐ盾となっているからこそ、虞も安全を保てるのであり、その虢を見捨てれば、次に攻められるのは虞だと警告しました。唇が歯を外気から守るように、虢が虞を守っているというたとえです。

ところが、虞の君主は、晋とは祖先を同じくする間柄なので、自分たちを害するはずはないと答えました。また、神への供え物を十分に整えているため、神が国を守ってくれるとも考えました。宮之奇は、晋が血縁のある者まで害してきたことを挙げ、神も供え物の多さではなく、人の徳に従うのだと重ねていさめました。

それでも君主は忠告を聞き入れず、晋軍に道を貸しました。宮之奇は、虞がまもなく滅びることを悟り、一族を連れて国を去りました。その年の十二月、晋は虢を滅ぼし、帰り道に虞へ宿泊すると、そのまま虞を不意に攻めて滅ぼし、虞の君主を捕らえました。宮之奇の警告は、そのまま現実となったのです。

ただし、『春秋左氏伝』では、宮之奇がこの言葉を新しく作ったとは書かれていません。「諺に所謂」とあるため、当時すでに広く知られていたことわざを、宮之奇が虞と虢の関係に当てはめたものです。この出来事によって、互いに頼り合う一方を失えば、残った側も安全ではいられないという歴史的な教訓と、深く結びつきました。

日本では、漢文を訓読した「唇亡びて歯寒し」のほか、「唇亡歯寒(しんぼうしかん)」という四字の形も使われています。四字の形は、福沢諭吉の『西洋事情』(1866〜1870年・幕末から明治時代初期)に、ヨーロッパ諸国が互いの危機を見過ごせない関係を表す言葉として出てきます。また、1872年刊行の『新撰字解』には、「唇亡びて歯寒し」の用例があります。

さらに、「唇つきて歯寒し」「唇やぶれて歯寒し」という形もあります。言い方に違いはあっても、互いに支え合っている相手の滅亡を見過ごせば、自分も危険にさらされるという意味は共通しています。

「唇亡びて歯寒し」の使い方

ともこ
新聞委員の人数が減って、学校新聞をやめる話が出ているの。
健太
放送委員会は学校新聞の記事を昼の放送で紹介しているし、新聞にも放送予定を載せてもらっているよ。なくなったら両方とも困る!
ともこ
まさに唇亡びて歯寒しだね。二つの委員会で一緒に先生へ相談しよう。
健太
放送委員から取材を手伝う人を募れば、学校新聞を続けられるかもしれないね!

「唇亡びて歯寒し」の例文

例文
  • 取引先の苦境を見過ごせば自社の生産も止まりかねず、唇亡びて歯寒しである。
  • 隣町の病院が閉鎖されれば、この町の救急医療にも負担が及ぶため、唇亡びて歯寒しといえる。
  • 二つの商店街は互いに客を呼び込んできたので、片方の衰退は唇亡びて歯寒しとなる。
  • 森が失われれば川の生き物にも影響が及ぶという事実は、唇亡びて歯寒しを思わせる。
  • 協力してきた仲間を苦境の中で見捨てれば、やがて自分も孤立するという唇亡びて歯寒しの教訓を忘れてはならない。
  • 地域の鉄道と観光業は唇亡びて歯寒しの関係にあり、どちらか一方だけでは発展を続けられない。

主な参考文献

・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・鎌田正『春秋左氏伝 一 新釈漢文大系30』明治書院、1971年。
・福沢諭吉『西洋事情』1866〜1870年。
・『新撰字解』1872年。




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