【慣用句】
雲に汁
【読み方】
くもにしる
【意味】
望みがかなう前兆が現れること。また、物事がしだいにうまく運ぶこと。


【英語】
・Things are looking up.(事態が好転してきた)
「雲に汁」の語源・由来
「雲に汁」の「汁」は、食べ物の汁を意味するものではありません。「汁」には、古く、潤いや雨の気配という意味がありました。そのため、もとの「雲に汁」は、雲が雨を降らせそうな気配を帯びることを表しています。
この表現の背景にあるのは、雨乞いです。雨を願った後に雲が現れ、そこに雨の気配が生じれば、願いがかなう前触れとなります。この具体的な空の変化から、望みのかなう兆しが現れることや、物事がよい方向へ動き始めることを表すようになりました。
古い用例は、俳諧書(はいかいしょ)『毛吹草(けふきぐさ)』(1638年序・江戸時代前期、松江重頼編)巻五にあります。「花も露も残る樗(あふち)や雲に汁〈秀重〉」とあり、「汁」を、雲に生じた雨の気配という意味で用いています。ここに出てくる「樗(あふち)」は、現在の仮名遣いでは「おうち」と読むセンダンの古名です。
この句では、花や露の残る樗と、雨を含みそうな雲とを取り合わせています。この段階の「雲に汁」は、まず空模様を表す具体的な言い方でありながら、雨を待ち望む人にとっては、願いが実現しそうな兆しをも示す表現でした。
江戸時代中期の『夕霧有馬松(ゆうぎりありまのまつ)』(宝暦2年・1752年、八文字自笑・八文字其笑作)には、「大藏少し雲に汁気の出来た心地して」とあります。ここでは、空そのものではなく、人物の心持ちを表す文脈で、「雲に汁気の出来た」という言い方が使われています。
「汁」が「汁気」となり、「雲に汁気が出来た」と表されたことからも、この言葉が、雨の気配だけでなく、期待できる成り行きが現れたことを表す比喩へと広がっていた様子が分かります。「汁気」は、雲に潤いが生じたというもとの景色を、より分かりやすく言い表した形です。
その後も、雲が雨の気配を帯びるという文字どおりの意味は残りましたが、しだいに、望みがかないそうな前兆や、事態が好転し始めた様子を表す言い方として定着しました。雨がまだ降っていなくても、雲の変化に希望を見いだすように、成功が決まる前の明るい兆しを表すところに、この表現の特徴があります。
「雲に汁」の使い方




「雲に汁」の例文
- 協力者が次々と現れ、行き詰まっていた文化祭の計画にも雲に汁が見えてきた。
- 売り上げに悩む店へ団体予約が入り、店主にとって雲に汁の知らせとなった。
- 有望な実験結果が得られ、長年続けてきた研究にも雲に汁の気配が生じた。
- 仲介役の働きで話し合いが前へ進み始め、こじれた問題にも雲に汁ができた。
- 主力選手がけがから復帰し、連敗中のチームにも雲に汁が現れた。
- 新たな証言が得られ、難航していた捜査もようやく雲に汁というところまで来た。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松江重頼編、新村出校閲、竹内若校訂『毛吹草』岩波書店、1943年。
・松江重頼編『毛吹草』1638年序。
・八文字自笑・八文字其笑『夕霧有馬松』1752年。
・中村幸彦「近世語資料としての詞葉新雅」『語文研究』第18号、九州大学国語国文学会、1964年。























