【故事成語】
君子は義に喩り、小人は利に喩る
【読み方】
くんしはぎにさとり、しょうじんはりにさとる
【意味】
立派な人物は、物事が正しい道理にかなうかどうかを考えるが、つまらない人物は、自分の利益になるかどうかを考えるということ。


【英語】
・The superior man understands what is right; the inferior man understands what is profitable.(立派な人物は正しいことを理解し、つまらない人物は利益になることを理解する)
【類義語】
・利を見ては義を思い危うきを見ては命を授く(りをみてはぎをおもいあやうきをみてはいのちをさずく)
・義を見てせざるは勇無きなり(ぎをみてせざるはゆうなきなり)
「君子は義に喩り、小人は利に喩る」の故事
「君子は義に喩り、小人は利に喩る」は、古代中国の孔子とその弟子たちの言行を伝える『論語(ろんご)』の「里仁(りじん)第四」に出てくる孔子の言葉です。『論語』は、紀元前5世紀ごろに生きた孔子の教えを、のちに弟子たちが書き留め、整理した全二十編の書物です。
原文には、「子曰、君子喩於義、小人喩於利」とあります。日本では、「子曰く、君子は義に喩り、小人は利に喩る」と読み下してきました。この章には、長い出来事や人物同士の問答はなく、孔子が君子と小人の違いを短い一文で示しています。
ここでいう「君子」は、徳を身につけた立派な人物を指します。「小人」は、その反対に、道徳よりも自分の都合を優先する人物を指します。もともと「君子」には、地位の高い人という意味もありましたが、『論語』では、人格や行いの優れた人を表す場合が多くあります。
「義」は、人として行うべき正しい道理を表し、「利」は利益や損得を表します。また、「喩る」は、ただ知識として知るだけでなく、何かに直面したとき、その大切さがすぐに分かり、判断へと結びつくことを意味します。つまり、君子はまず正しいかどうかに心が向き、小人はまず得をするかどうかに心が向くという教えです。
「里仁第四」には、この言葉に近い教えが続いています。第十章には、君子は好き嫌いだけで行動せず、「義」に従うという言葉があり、第十二章には、利益ばかりを頼りに行動すれば、人から恨まれることが多いという言葉があります。その流れの中で、正しさを基準にする心と、損得を基準にする心との違いが、よりはっきりと示されています。
古い注釈では、「喩」は「暁」、すなわち、はっきり分かることだと解いています。また、君子は仁義に明るく、小人は財産や利益に明るいとも述べています。知識の量を比べているのではなく、心がどちらへ素早く向かうかを比べた言葉として読まれてきました。
南宋の朱熹は、『四書章句集注』の中で、「義」を道理にかなっていること、「利」を人が欲しがるものと解きました。この解釈では、目の前の出来事に対して、自分に都合がよいかどうかよりも、まず道理にかなうかを考える態度が、君子の特徴となります。
江戸時代前期の伊藤仁斎は『論語古義』で、君子と小人とでは好むものが異なるため、心が向かう先も異なると説きました。君子は義を好むので義を素早く見分け、小人は利を好むので利益を素早く見分けるという理解です。
江戸時代中期の荻生徂徠は『論語徴』で、君子を政治や社会に責任を負う者、小人を一般の民という立場からも解釈しました。そのうえで、君子も利益を欲し、小人も正しいことを喜ぶ場合はあるものの、それぞれが第一に務めるものは異なると述べています。後代には、利益そのものをすべて悪とするのではなく、何を判断の第一の基準に置くかを示す言葉としても読まれました。
近代になると、中里介山の『大菩薩峠』(大正2年から昭和16年)に、「小人は利にさとる」という形が使われています。長い一文の一部だけでも意味が通じるほど、この表現が日本語の中に広く定着していたことが分かります。
渋沢栄一も、大正5年の談話でこの章を取り上げ、君子は正義を基準として行動を決め、小人は目先の利害を基準として決めると説きました。商売や社会生活でも、利益だけでなく、正しい道理に照らして判断することが必要だという教えとして受け継いだのです。
この故事成語は、お金や利益を得ること自体を否定する言葉ではありません。利益が得られる場面であっても、それが正しい行いか、人を傷つけないか、責任を果たしているかを先に考えるところに、君子の心構えがあると教えています。
「君子は義に喩り、小人は利に喩る」の使い方




「君子は義に喩り、小人は利に喩る」の例文
- 委員長は、君子は義に喩り、小人は利に喩るという教えに従い、自分の組に有利な不正を認めなかった。
- 君子は義に喩り、小人は利に喩ると考えた父は、もうかる話であっても人をだます仕事を断った。
- 友人を裏切れば賞品をもらえると聞き、君子は義に喩り、小人は利に喩るという言葉を思い出した。
- 社長は君子は義に喩り、小人は利に喩るの姿勢を守り、利益より商品の安全を優先した。
- 選挙で票を得るためだけに約束を変える態度は、君子は義に喩り、小人は利に喩るという教えに反する。
- 君子は義に喩り、小人は利に喩るを座右の言葉とする彼女は、損をしても正しい意見を曲げなかった。
主な参考文献
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・『論語』
・何晏集解、邢昺疏『論語注疏』。
・朱熹『四書章句集注』南宋。
・伊藤仁斎『論語古義』江戸時代前期。
・荻生徂徠『論語徴』江戸時代中期。
・中里介山『大菩薩峠』1913〜1941年。
・渋沢栄一『実験論語処世談』実業之世界社、1923年。




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