【慣用句】
薬にしたくも無い
【読み方】
くすりにしたくもない
【意味】
ほんの少しもないこと。全くないこと。


【英語】
・not a shred of …(……が少しもない)
【類義語】
・微塵もない(みじんもない)
・爪の垢ほどもない(つめのあかほどもない)
「薬にしたくも無い」の語源・由来
「薬にしたくも無い」は、薬として使うほどのわずかな量さえないというところから、ほんの少しもないことを強調するようになった表現です。よく似た「薬にする程」も「非常に少ないこと」を表すため、「薬」は、ごくわずかな量を示すたとえとして用いられてきました。
この言い方の「したくもない」は、「薬にしたいと思わない」という意味ではありません。「薬にしたくてもない」、すなわち、薬にしようとしても材料となるものがないという意味であり、「薬にしようと言ってもない」という形でも用いられます。
古い用例は、江島其磧の浮世草子(うきよぞうし)『傾城禁短気(けいせいきんたんき)』(1711年・江戸時代中期)第二巻にあります。この作品は、遊里をめぐるさまざまな考え方や人々の駆け引きを、談義の形を借りて描いた、六巻二十四話の物語です。
その本文には、「こんな大臣は男色の方には、薬にせふといふてもなし」とあります。「薬にせふ」は、現在の言い方では「薬にしよう」に当たり、その方面の性向が、薬に使えるほどのわずかな分量さえないことを表しています。
この古い用例では、「薬にせふといふてもなし」という長い形を用いて、全く存在しないことを強調しています。その後、「薬にしたくも無い」「薬にしたくてもない」という短い形にまとまり、さまざまな物事について、ほんの少しもないことを表す決まった言い回しとして定着しました。
南鐐堂一片の洒落本(しゃれぼん)『寸南破良意(すなはらい)』(1775年・江戸時代中期)には、近い表現である「薬にするほどもねへ」が出てきます。「ねへ」は「ない」のくだけた言い方で、ここでも「薬にするほど」が、取るに足りないほど少ない量を表しています。
このように、初めは「薬にしようとしても、その分さえない」という具体的なたとえでしたが、やがて量だけでなく、思いやり、誠意、反省、可能性などにも用法が広がりました。現在では、あるものが単に少ないのではなく、全くないと言い切りたいときに用いる、強い否定の表現となっています。
「薬にしたくも無い」の使い方




「薬にしたくも無い」の例文
- 彼の説明には、主張を裏付ける根拠が薬にしたくも無い。
- 大きな失敗をしたにもかかわらず、本人には反省の色が薬にしたくも無い。
- 自分の利益ばかりを考える彼には、人を思いやる心が薬にしたくも無い。
- そのうわさには確かな証拠が薬にしたくも無いので、軽々しく信じるべきではない。
- 試合を投げ出した選手たちには、最後まで戦おうとする気力が薬にしたくも無い。
- 住民の意見を聞かずに決めた計画には、地域への配慮が薬にしたくも無い。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・江島其磧『傾城禁短気』1711年。
・南鐐堂一片『寸南破良意』1775年。























