【故事成語】
君子は諸を己に求め、小人は諸を人に求む
【読み方】
くんしはこれをおのれにもとめ、しょうじんはこれをひとにもとむ
【意味】
徳のある立派な人物は、問題の原因や果たすべき責任をまず自分に求めるが、つまらない人物は、すぐに他人へ求めるということ。


【英語】
・A noble person looks within; a petty person looks to others.(立派な人物は自分の内を見つめ、つまらない人物は他人に求める)
【類義語】
・身自ら厚くして薄く人を責むれば則ち怨みに遠ざかる(みみずからあつくしてうすくひとをせむればすなわちうらみにとおざかる)
【対義語】
・責任転嫁(せきにんてんか)
「君子は諸を己に求め、小人は諸を人に求む」の故事
「君子は諸を己に求め、小人は諸を人に求む」は、古代中国の思想家・孔子とその弟子たちの言行を伝える『論語(ろんご)』の「衛霊公(えいれいこう)第十五」に出てくる言葉です。原文には、「子曰、君子求諸己、小人求諸人」とあります。
この章には、特定の人物をめぐる長い出来事や問答はありません。孔子が、徳を修めた「君子」と、自分本位に行動する「小人」との違いを、短い一文で明らかにしています。
原文の「諸」は、「之」と「於」が一つになった字で、「これを〜に」という働きをします。そのため、「求諸己」は「これを自分に求める」、「求諸人」は「これを他人に求める」という意味になります。
ここでいう「これ」が何を指すのかは、原文には詳しく書かれていません。何かがうまくいかなかった原因、果たすべき責任、自分に足りない努力、身につけるべき徳などを広く含む表現として受け継がれてきました。君子は、外へ不満を向ける前に、自分が改めるべきところを探すのです。
三国時代の魏(ぎ)で何晏がまとめた『論語集解(ろんごしっかい)』は、この一節を「君子は己を責め、小人は人を責める」と解いています。立派な人物は自分を省みますが、小人は自分を振り返らず、他人の不足や失敗ばかりを責めるという意味です。
この解釈によって、「求める」という言葉は、単に助けや物を欲しがることではなく、物事の原因や責任をどこに置くかという意味で読まれてきました。自分に求める者は、自分を修めて成長できますが、人にばかり求める者は、自分の欠点を直す機会を失います。
南宋の朱熹がまとめた『四書章句集注(ししょしょうくしっちゅう)』には、君子はどのような場合にも自分へ立ち返って原因を求め、小人はその反対であるとあります。ここでは、一度だけ自分の失敗を認めることではなく、常に自分を振り返る習慣が、君子と小人を分けるものとして示されています。
同じ「衛霊公」には、「身自ら厚くして薄く人を責むれば則ち怨みに遠ざかる」という、意味の近い言葉もあります。自分の過失には厳しく向き合いながら、他人を責めるときには寛大であれば、人から恨まれにくいという教えです。
江戸時代中期の儒学者・伊藤仁斎も、『童子問(どうじもん)』(1707年)の中で、「反求」とは、人を責める心を自分へ向け、自分を責めることだと説きました。『論語』の教えは、日本でも、自分を修めるための実践的な心得として読み継がれたのです。
日本語では、原文を「君子は諸を己に求め、小人は諸を人に求む」と読み下します。前半の「求め」は後半へ続く形であり、文末の「求む」は、古い日本語の言い切りの形です。この対照的な言い回しによって、自分を省みる態度と、責任を他人へ押しつける態度との違いが、はっきりと表されています。
ただし、この言葉は、どのような問題もすべて自分一人の責任だと思い込むよう勧めるものではありません。周囲の事情を正しく見たうえで、まず自分にできたことや、改められることを振り返る姿勢を教えています。自分の非を認めて次の行動を変えられるところに、君子の強さがあるのです。
「君子は諸を己に求め、小人は諸を人に求む」の使い方




「君子は諸を己に求め、小人は諸を人に求む」の例文
- 試合に負けた主将は、君子は諸を己に求め、小人は諸を人に求むと考え、自分の作戦を見直した。
- 君子は諸を己に求め、小人は諸を人に求むという教えに従い、弟を責める前に自分の言い方を反省した。
- 友人との約束を忘れた彼は、君子は諸を己に求め、小人は諸を人に求むを思い出し、言い訳をせずに謝った。
- 店長は、君子は諸を己に求め、小人は諸を人に求むの姿勢で、売上不振の責任を部下だけに負わせなかった。
- 事故の原因を現場の職員へ押しつける態度は、君子は諸を己に求め、小人は諸を人に求むという教えに反する。
- 君子は諸を己に求め、小人は諸を人に求むを心に留める彼女は、失敗するたびに自分が改善できる点を考えた。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・『論語』。
・何晏集解、邢昺疏『論語注疏』。
・朱熹『四書章句集注』南宋。
・伊藤仁斎『童子問』1707年。
・James Legge, The Chinese Classics, Vol. I, 1861.























