【ことわざ】
君子に二言なし
【読み方】
くんしににげんなし
【意味】
徳のある立派な人は、軽々しく約束せず、一度口にしたことには責任をもち、前言をひるがえさないということ。
君子に二言なしは、発言を都合よく変えず、約束を守り抜く誠実さを重んじる教えだよ。
「必ず行う」と口にした人が、その言葉どおりに責任を果たす場面で用いるニャン。
【英語】
・be as good as one’s word.(約束したことを言葉どおりに行う)
・one’s word is one’s bond.(自分の言葉を固い約束として守る)
【類義語】
・武士に二言なし(ぶしににごんなし)
・男子の一言金鉄の如し(だんしのいちげんきんてつのごとし)
【対義語】
・言行不一致(げんこうふいっち)
「君子に二言なし」の語源・由来
「君子に二言なし」の「君子」は、もともと身分の高い人を指しましたが、中国の古い思想では、学問と徳を身につけた立派な人物という意味でも用いられました。「二言」は、単に二度ものを言うことではなく、前に述べたことと食い違う発言をしたり、約束を違えたりすることを指します。したがって、このことわざは、立派な人物は、一度口にした言葉を後から変えないという意味になります。
現在の形に近い最古級の用例は、『雑筆往来(ざっぴつおうらい)』(13世紀中期から後期ごろ成立、鎌倉時代)にある「君子無二言、綸言如汗」です。「君子に二言なく、綸言(りんげん)は汗のようなものである」という内容で、君子の言葉と、君主が発する重い言葉とを並べています。『雑筆往来』は、手紙を書くために必要な知識や慣用的な言い回しを集めた往来物であり、この時代にはすでに、「君子無二言」という形が教養的な表現として扱われていました。
この用例に添えられた「綸言如汗」は、「綸言汗の如し」と読む言葉です。「綸言」は天子の言葉を意味し、『礼記(らいき)』「緇衣(しい)」の「王の言葉は、細い糸のようにわずかなものであっても、外へ出れば太い組みひものように重くなる」という教えを背景にしています。さらに、『漢書(かんじょ)』(後漢、1世紀、班固ほか編)「劉向伝(りゅうきょうでん)」には、号令は汗と同じであり、汗が一度出れば体内へ戻らないように、発した命令も取り消してはならないという趣旨の言葉があります。
日本では、「君子無二言」が現れるより前から、同じ考え方が受け入れられていました。平康頼の『宝物集(ほうぶつしゅう)』(1179年ごろ・平安時代末期)には、「綸言汗のことし。天子は二言なしと申たり」とあります。天子の言葉は、一度出た汗のように元へ戻せず、前の発言と違うことを言ってはならないという意味です。この「天子は二言なし」という言い方が、「君子に二言なし」と共通する考え方を示しています。
やがて、「二言」は、「前言と異なることを言う」「約束を違える」という意味の言葉として定着していきました。室町時代中期の辞書にも「にげん」の読みが収められ、長崎で刊行された『日葡辞書(にっぽじしょ)』(1603〜1604年、日本イエズス会編)には、「クンシニ niguen ナシ」と記されています。外国人宣教師が日本語を学ぶための辞書に載ったことからも、このことわざが、当時すでによく知られた言い回しであったことが分かります。
江戸時代に入ると、この表現は、教訓を説く文章だけでなく、物語の会話にも使われるようになります。西沢一風の『御前義経記(ごぜんぎけいき)』(1700年・江戸時代前期)には、「君子二言なし」という用例があり、一度口にしたことを変えないという意味で使われています。
さらに、式亭三馬の『諢話浮世風呂(おどけばなしうきよぶろ)』(1809〜1813年・江戸時代後期)には、「君子二言なしぢゃ」というせりふが出てきます。もとは漢文調の「君子無二言」だった表現が、「君子に二言なし」「君子二言なし」という日本語の形となり、日常の会話にもなじんでいったことを示す用例です。
「二言」は、「にげん」と「にごん」の両方で読まれます。古くは、「君子に二言なし」では「にげん」の読みが広く行われましたが、「武士に二言なし」では「にごん」が一般的です。どちらも、前の言葉を取り消したり、約束を破ったりすることを表します。
このように、「君子に二言なし」は、中国から伝わった、権威ある者の言葉は一度発すれば取り消せないという考え方を背景とし、日本で「君子無二言」という形にまとめられたことわざです。現在では、身分や立場に限らず、誰であっても自分の発言に責任をもち、約束を誠実に守るべきだという教えとして用いられています。
「君子に二言なし」の使い方




「君子に二言なし」の例文
- 健太は君子に二言なしと心に決め、友達と交わした約束を最後まで守った。
- 父は君子に二言なしという言葉どおり、休日に家族を動物園へ連れていった。
- 委員長は君子に二言なしと宣言し、自分が引き受けた仕事を投げ出さなかった。
- 君子に二言なしというからには、一度承諾した役目を都合よく断るべきではない。
- 社長は君子に二言なしを信条とし、取引先との約束を必ず実行した。
- 指導者には、君子に二言なしの精神で、自らの発言に責任をもつ姿勢が求められる。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・『雑筆往来』13世紀中期〜後期ごろ。
・平康頼『宝物集』1179年ごろ。
・日本イエズス会編『日葡辞書』1603〜1604年。
・西沢一風『御前義経記』1700年。
・式亭三馬『諢話浮世風呂』1809〜1813年。
・班固ほか『漢書』後漢、1世紀。























