【ことわざ】
薬より養生
【読み方】
くすりよりようじょう
【意味】
健康を保つには、病気になってから薬に頼るよりも、ふだんから体をいたわり、生活を整えることが大切だという教え。病気になった場合にも、むやみに薬だけに頼らず、十分に休んで回復に努めることをいう。


【英語】
・Prevention is better than cure.(予防は治療より大切である)
【類義語】
・転ばぬ先の杖(ころばぬさきのつえ)
【対義語】
・泥縄(どろなわ)
「薬より養生」の語源・由来
「薬より養生」は、「薬」と「養生」を比べる形で、病気になってから薬を飲むことよりも、ふだんから生命を養い、健康を保つことを重んじることわざです。「養生」には、健康なときの節制だけでなく、病気になったあとの手当てや休養という意味もあります。
「養生」という考えは、中国古代までさかのぼります。思想書『荘子(そうじ)』には「養生主」という一編があり、自然の道理に従いながら生命を保つことが、養生の要として説かれています。この段階における養生は、病気を治す方法だけではなく、心と体を無理なく保つ生き方を広く指していました。
日本における古い用例としては、『明衡往来(めいごうおうらい)』(11世紀成立・平安時代後期、藤原明衡著と伝わる)に「松子養生之術」という表現が記されています。「松子」は、中国の伝説上の仙人である赤松子を指し、ここでは、長寿を保つための方法という古い漢語の意味で「養生」が使われています。
その後、『玉葉(ぎょくよう)』(平安時代後期から鎌倉時代初期、九条兼実著)の治承5年(1181)3月16日の条では、「養生」が病気を手当てする意味で使われています。この用例からは、「生命を養って長生きを図る」という広い考えが、病人の回復を助ける行為にも用いられるようになったことが分かります。
『方丈記(ほうじょうき)』(1212年・鎌倉時代初期、鴨長明著)には、「つねにありき、つねに働くは、養性なるべし」とあります。いつも歩き、体を動かすことが養生になるという意味で、薬ではなく、日々の暮らし方によって健康を保つ発想が、すでに中世の文章に表れています。なお、日本では「養生」と「養性」という二つの表記が混じって使われることがありました。
江戸時代中期になると、貝原益軒の『養生訓(ようじょうくん)』(1713年刊)が、養生の心得を詳しくまとめました。この書物では、飲食、心の持ち方、入浴、病気への備え、医師の選び方、薬の用い方などを取り上げ、健康を保つためには、自分の暮らしを整える努力が欠かせないと説いています。
『養生訓』の「用薬」では、薬にはそれぞれ偏った性質があり、病気に合えば良薬となる一方で、合わなければ害になると述べています。また、「病の災より薬の災多し」と記し、むやみに薬を服用せず、「薬を用ずして、養生を慎みてよくせば」治りやすいという趣旨を示しています。
ただし、『養生訓』は、薬そのものを退けてはいません。病状を正しく見極めた医師が用いる適切な薬の働きを認めたうえで、病気に合わない薬をむやみに使うことを戒めています。その考えは、薬だけに頼るのではなく、まず日々の節制や十分な休養を大切にする「薬より養生」の教えとよく重なります。
このように、中国から伝わった「生命を養う」という考えは、日本で健康維持と病後の休養という二つの意味をもち、長い年月をかけて暮らしの心得となりました。それが「薬より養生」という覚えやすい比較の形にまとまり、現在では、病気を防ぐためにも、病後の回復を助けるためにも、日ごろから体をいたわることが大切だと教えることわざとして使われています。
「薬より養生」の使い方




「薬より養生」の例文
- 祖父は薬より養生を大切にし、毎日の散歩と十分な睡眠を欠かさない。
- 風邪をこじらせてから慌てるより、薬より養生の心で、今夜は早く休もう。
- 母は薬より養生だと言って、家族の食事や生活時間を整えている。
- 忙しい時期ほど薬より養生を忘れず、無理な残業を続けないことが大切だ。
- 地域の健康講座では、薬より養生の考えから、日ごろの健康管理が話題になった。
- 退院した父は薬より養生を心に留め、医師の指示を守りながら静かに体を休めた。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・『荘子』。
・藤原明衡『明衡往来』11世紀成立。
・九条兼実『玉葉』。
・鴨長明『方丈記』1212年。
・貝原益軒『養生訓』1713年。























