【故事成語】
群羊を駆って猛虎を攻む
【読み方】
ぐんようをかってもうこをせむ
【意味】
多くの弱い者を連合させて、圧倒的に強い者へ立ち向かわせること。転じて、どれほど努めても勝ち目のない対抗のたとえ。


【類義語】
・蟷螂の斧(とうろうのおの)
【対義語】
・柔よく剛を制す(じゅうよくごうをせいす)
「群羊を駆って猛虎を攻む」の故事
「群羊を駆って猛虎を攻む」は、中国の戦国時代に諸国を巡った人々の弁説や策謀を国別に集め、前漢末に劉向が編んだ『戦国策(せんごくさく)』の「楚策一」に由来します。『戦国策』は全三十三巻から成り、戦国時代の外交や政治をめぐる説得の言葉を数多く伝えています。
当時、西方の秦(しん)は勢力を強めていました。これに対し、東方の諸国が南北に同盟して秦へ対抗する政策を合従(がっしょう)といい、秦がそれぞれの国と個別に結び、連合を切り崩す政策を連衡(れんこう)といいます。
秦に仕えていた張儀(ちょうぎ)は、合従を破って連衡を進めるため、楚(そ)の王を説得しました。張儀は、秦には広い領土と強い軍隊があり、秦に遅れて従う国は先に滅びると、その力を大きく説き立てます。
その中で張儀は、合従によって秦へ対抗することを「驅群羊而攻猛虎」、すなわち、多くの羊を追い立てて猛虎を攻めさせるようなものだと表しました。続いて「虎之與羊、不格明矣」と述べ、虎と羊とが対等に争えないことは明らかだと説いています。
ここで使われている「格」には、相手に抵抗する、対等に張り合うという意味があります。そのため「不格」は、羊が虎に対抗できず、まったく勝負にならないことを表します。
このたとえにおける「猛虎」は強国の秦を、「群羊」は秦に対抗しようとする諸国を指しています。張儀は楚王に対し、猛虎である秦とは結ばず、群羊である諸国と組むのは誤った判断だと迫りました。
したがって、もとの故事は、弱い者も大勢集まれば強者に勝てると励ます話ではありません。数をそろえても埋められないほど力の差が大きく、対抗すること自体に勝ち目がないという、張儀の厳しい見方を示した言葉です。
同じ比喩は、前漢の司馬遷が紀元前九十一年ごろに完成させた『史記(しき)』の「張儀列伝」にも、「驅群羊而攻猛虎」という、ほぼ同じ形で記されています。少なくとも前漢の時代には、張儀の弁説を象徴する表現として、この虎と羊のたとえが書き伝えられていたことが分かります。
中国の原文「驅群羊而攻猛虎」は、日本では漢文を読み下し、「群羊を駆りて猛虎を攻む」と表されました。現在は、古風な「駆りて」を口語に近い「駆って」に改めた、「群羊を駆って猛虎を攻む」という形も広く用いられています。
現在の意味も、この故事の筋を受け継いでいます。単に弱い者同士が協力する場面ではなく、多くの弱者を集めてもなお強者には及ばず、勝ち目のない戦いをさせる場面に当てはめる故事成語です。
「群羊を駆って猛虎を攻む」の使い方




「群羊を駆って猛虎を攻む」の例文
- 初心者ばかりを集めて全国大会の優勝チームに挑ませるのは、群羊を駆って猛虎を攻むようなものだ。
- 訓練の足りない部隊を強国の精鋭軍へ向かわせる作戦は、群羊を駆って猛虎を攻むに等しい。
- 弱小国をまとめただけで大国に戦いを挑ませる政策は、群羊を駆って猛虎を攻む結果となった。
- 資金も技術も乏しい会社を寄せ集め、業界最大手と正面から競わせるのは、群羊を駆って猛虎を攻むようで危うい。
- 十分な準備もなく経験豊かな専門家集団に対抗する計画は、群羊を駆って猛虎を攻むというものだ。
- 部長は、経験の浅い社員だけで巨大な事業を引き受ける案を、群羊を駆って猛虎を攻む無謀な計画だと退けた。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・日本漢字能力検定協会編『漢検 漢字辞典 第二版』日本漢字能力検定協会、2014年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・劉向編、常石茂訳『戦国策』全3巻、平凡社、1966〜1967年。
・司馬遷『史記』前91年ごろ。























