【故事成語】
落とし穴に落とし石を下す
【読み方】
おとしあなにおとしいしをくだす
【意味】
苦境に陥っている人の弱みにつけ込み、さらに害や苦しみを加えること。


【英語】
・kick someone when they are down(弱っている人にさらに打撃を加える)
【類義語】
・落穽下石(らくせいかせき)
【対義語】
・敵に塩を送る(てきにしおをおくる)
「落とし穴に落とし石を下す」の故事
「落とし穴に落とし石を下す」は、穴に落ちて自力では抜け出せない人に、助けの手を差し伸べるどころか、上から石まで落とす姿を表します。そこから、危難に陥った人の弱みにつけ込み、さらに害を加えるという意味になりました。
もとになったのは、唐の文学者韓愈(かんゆ)が、柳宗元(りゅうそうげん)をしのんで書いた『柳子厚墓誌銘(りゅうしこうぼしめい)』(820年・唐、韓愈作)です。柳宗元は字を子厚といい、韓愈とともに古文の復興に力を尽くした文章家でした。
この墓誌銘には、柳宗元と友人の劉禹錫(りゅううしゃく)が、都から遠い地方へ赴任させられたときの出来事が記されています。柳宗元は柳州(りゅうしゅう)へ、劉禹錫は播州へ行くことになりましたが、劉禹錫には年老いた母がいたため、柳宗元は友人とその母の行く末を案じました。
柳宗元は、播州は暮らすのがきわめて難しい土地であり、母子がともに赴くのは無理だと嘆き、自分の赴任先である柳州と交換してほしいと、朝廷へ願い出ようとしました。自分がさらに罪を受けても悔いないという覚悟で、友人を救おうとしたのです。
韓愈はこの行いを、苦境に陥ったときにこそ人の節義が表れる例としてたたえました。その一方で、普段は親しげに交わりながら、わずかな利害が生じると友を見捨てる人々を厳しく批判しています。
原文には、「落陷阱……又下石焉」とあります。これは、友が落とし穴に落ちても手を伸ばして救わず、かえって穴の中へ押し込み、そのうえ石まで落とす者がいる、という意味です。韓愈は、そのような行いは、獣でさえ忍びないほど恥ずべきものだと述べています。
現在の「落とし穴に落とし石を下す」は、原文にある「落陷阱」と「又下石焉」という二つの動作を、日本語で分かりやすく一続きにした表現です。原文に現在の日本語の形がそのまま書かれているわけではありませんが、穴に落ちた人を救わず、さらに石を落とすという構図と意味を受け継いでいます。
中国では後代に、同じ故事を「落井下石」や「落穽下石」という四字の形で表すようになりました。明代に編まれ、清代に増補された『幼學瓊林(ようがくけいりん)』には、「乘患相攻、謂之落井下石」とあり、人の災難につけ込んで攻撃することを「落井下石」と呼ぶと記されています。
この故事成語で大切なのは、災難が偶然重なるのではなく、すでに弱っている相手に、だれかが意図的に害を加える点です。助けるべきときに見捨てるだけでなく、さらに追い詰める不義を強く戒める意味を含んでいます。
「落とし穴に落とし石を下す」の使い方




「落とし穴に落とし石を下す」の例文
- 試合で失敗した選手を皆の前で責め続けるのは、落とし穴に落とし石を下す行為だ。
- 失業して困っている友人に厳しい条件を突きつけるとは、落とし穴に落とし石を下すような仕打ちだ。
- 会社の失敗を一人の社員だけに押しつけて処分を重くするのは、落とし穴に落とし石を下すに等しい。
- 病気で店を休んでいる間に悪いうわさを広めるなど、落とし穴に落とし石を下すことは許されない。
- 敗れた相手の小さな過失まで持ち出して攻撃する姿は、落とし穴に落とし石を下すものだった。
- 友人が家庭の問題で悩んでいるときに秘密を言いふらすのは、落とし穴に落とし石を下すのと同じだ。
主な参考文献
・日本漢字能力検定協会『漢字ペディア』。
・中華民国教育部『成語典』2020年版。
・Cambridge University Press『Cambridge Dictionary』。
・韓愈『柳子厚墓誌銘』820年。
・程登吉編、鄒聖脈増補『幼學瓊林』。























