【ことわざ】
兎の登り坂
【読み方】
うさぎののぼりざか
【意味】
得意な分野や有利な条件のもとで持ち前の力を発揮し、物事が早く順調に進むことのたとえ。


【英語】
・go like clockwork(問題なく計画どおりに進む)
【類義語】
・順風満帆(じゅんぷうまんぱん)
【対義語】
・難航(なんこう)
「兎の登り坂」の語源・由来
「兎の登り坂」は、兎が坂を駆け上がる姿を、物事が勢いよく進む様子に重ねたことわざです。兎は坂を登るのが得意で速いと考えられてきたため、自分に適した場で能力を発揮することや、よい条件に恵まれて物事が早く運ぶことを表すようになりました。
兎の体は、後ろ足が前足よりも長く、跳躍に適しています。この体つきから、登り坂では長い後ろ足を使って力強く進める一方、下り坂では走りにくいという捉え方が生まれました。
兎狩りについての記録にも、兎を山の斜面へ追い上げ、反対側の下り斜面で待ち受ける方法が記されています。下り斜面では兎の速度が落ちるためであり、坂の向きによって走りやすさが異なるという見方は、実際の狩猟経験にも結び付いていました。
このことわざの古い用例は、『毛吹草(けふきぐさ)』(寛永15年〈1638〉序・江戸時代前期、松江重頼編)に出てきます。『毛吹草』は全七巻の俳諧書で、俳諧の作法や句作に役立つ言葉、諸国の産物などを収めた書物です。
巻五には、秀重の句として「はやく越ゆる年やうさきの上り坂」とあります。年が早く過ぎていくさまを、兎が坂を素早く登る姿にたとえた句です。
この古い用例では、「登り坂」ではなく「上り坂」と書かれています。「上り坂」と「登り坂」は、いずれも上へ向かう坂道を表す書き方であり、現在のことわざでは「兎の登り坂」という表記が広く用いられています。
『毛吹草』の句では、「早く進む」という兎の速さが前面に出ています。そこから、単に移動が速いという意味ではなく、物事が滞りなく進み、短い間に成果へ近づくことを表すたとえへと広がりました。
さらに、兎が登り坂という自分に適した場所で力を発揮することから、「得意な分野で持ち前の能力を十分に働かせる」という意味も重なりました。この意味では、速さだけでなく、能力と環境との相性のよさが大切です。
たとえば、絵の得意な人が挿絵の仕事を任されたり、計算の得意な人が数字を扱う作業に取り組んだりする場合、その人にとっては力を発揮しやすい状況です。そこへ必要な道具や協力者までそろえば、物事はさらに早く進みます。
このように、「兎の登り坂」は、本人の能力だけをほめる言葉でも、偶然の幸運だけを表す言葉でもありません。持ち前の力を生かせる場所や条件に恵まれ、物事が勢いよく順調に進む状態を言い表すことわざです。
「兎の登り坂」の使い方




「兎の登り坂」の例文
- 経験のある仕事を任され、必要な資料もそろった彼にとって、今回は兎の登り坂だった。
- 得意な理科の研究に先生の助言も加わり、夏休みの課題は兎の登り坂で進んだ。
- 優秀な仲間と十分な設備に恵まれ、新商品の開発は兎の登り坂となった。
- 土地勘のある地域で案内役を務める彼女には、今回の仕事は兎の登り坂だ。
- 長年磨いてきた技術を生かせる部署へ移り、彼の活躍は兎の登り坂となった。
- 資金と人材がそろったことで、町の再建計画は兎の登り坂の勢いで進み始めた。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・佐竹秀雄・武田勝昭・伊藤高雄編、北村孝一監修『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』小学館、2012年。
・松江重頼編『毛吹草』寛永15年(1638)序。
・馬場俊臣「『兎』に関することわざ―兎をどう捉えてきたか―」『札幌国語研究』第17号、北海道教育大学国語国文学会・札幌、2012年。
・Cambridge University Press & Assessment, Cambridge Dictionary, “run/go like clockwork”.























