【ことわざ】
善は急げ
【読み方】
ぜんはいそげ
【意味】
よいことだと思ったら、ためらわずにすぐ実行せよ、という教え。


【英語】
・Do not put off a good deed(よい行いを先延ばしにするな)
・Strike while the iron is hot(好機を逃さず行動せよ)
【類義語】
・思い立ったが吉日(おもいたったがきちじつ)
・鉄は熱いうちに打て(てつはあついうちにうて)
【対義語】
・悪は延べよ(あくはのべよ)
「善は急げ」の語源・由来
「善は急げ」は、中国の古い人物や事件をもとにした故事成語ではなく、よいことはすぐ行うべきだという教えを短く表したことわざです。「善」は、正しい道理にかなうこと、よいこと、またそのような行為を表します。つまり、このことわざの「善」は、ただ得をすることではなく、道理に合ったよい行いを指します。
古い用例としては、『毛吹草(けふきぐさ)』(1638年序・江戸時代前期、松江重頼編)に「ぜんはいそげ、あくはのべよ」という形が出てきます。現在の「善は急げ」は単独で使われることが多いですが、もとは「悪は延べよ」と対にして、よいことはすぐ行い、悪いことは先へ延ばして思いとどまれ、という形で理解されていました。
この対句の形は、ことわざの考え方をよく示しています。よい行いは、迷っているうちに機会を逃しやすいものです。一方、悪い行いは、すぐに実行せず時間を置けば、気持ちが静まり、踏みとどまれることがあります。そのため、「急げ」と「延べよ」を組み合わせることで、行動の速さと慎重さを分けて教えているのです。
このことわざの背景には、仏教の教えと重なる考え方もあります。『法句経(ほっくぎょう)』または『ダンマパダ』は、仏教の教えを短い詩句の形で伝える古い仏典で、その第116句には、善を行うことを急ぎ、心を悪から遠ざけるようにという趣旨の教えが述べられています。英訳でも、よいことを行うのを急ぎ、悪から心をおさえよ、善を行うのが遅い者の心は悪を楽しむ、という内容になっています。
ただし、日本語のことわざ「善は急げ」が、『法句経』の一節からそのまま訳されたものだと単純に言い切るより、仏教を通して広く知られた「善を急ぐ」という考えが、日本語の短いことわざとして整ったものと考えるのが自然です。江戸時代前期の『毛吹草』に「善は急げ、悪は延べよ」の形が出てくることから、少なくとも近世初めには、現在に近い言い回しとして定着していたことが分かります。
近代の文章にも、このことわざは自然に使われています。夏目漱石の『こゝろ』(1914年・大正時代、夏目漱石著)では、結婚を先に延ばすかどうかという場面で、「善は急げ」ということわざが引かれています。ここでは、よいと思うことや決めたことを、ぐずぐずせず実行したいという気持ちを表す言葉として用いられています。
このように、「善は急げ」は、よい行いをすすめるだけでなく、人の心がためらいや怠けに流れやすいことも見すえたことわざです。今の使い方でも、相手をせかすだけの言葉ではありません。よいと分かっていることを、迷って機会を逃さないうちに始めよう、という前向きな教えとして使われています。
「善は急げ」の使い方




「善は急げ」の例文
- けがをした友だちを見つけたので、善は急げと考えて、すぐに先生を呼びに行った。
- 地域の清掃活動に参加できると知り、善は急げで、その日のうちに申し込んだ。
- 謝らなければならないと思ったなら、善は急げで、早いうちに相手へ気持ちを伝えるべきだ。
- 祖母の荷物が重そうだったので、善は急げと思い、すぐに玄関まで運ぶのを手伝った。
- 寄付の受付が今日までだと聞き、善は急げと、家族で相談してすぐに手続きをした。
- 新しい本を図書室に入れてほしいという意見が出たため、善は急げで、学級委員がその日の放課後に先生へ相談した。
主な参考文献
・松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・中村元訳『ブッダの真理のことば・感興のことば』岩波書店、1978年。
・松江重頼編『毛吹草』1638年序。























